原爆投下から62年を迎え、広島市には115万人が住んでいるのに、いまだにそう思われることもあるんだろうか。早速調べてみよう。
まずは放射線量を測る装置を持ち、原爆ドームへ行った。1時間当たり0・08マイクロシーベルトと表示された。
原爆ドームでの1時間あたりの放射線量は―。測定器は0・08マイクロシーベルトを表示した |
え、ゼロじゃない?。素朴にびっくりした。
広島大原爆放射線医科学研究所(原医研)の星正治教授(放射線生物・物理学)によると、宇宙や大地からの自然放射線を感知しているためで「日本では、どこでも同じ程度の数値」という。
白血球の一種、リンパ球が減り始めるのが、500ミリシーベルト(50万マイクロシーベルト)とされているから、計測値は1000万分の1くらいだ。
そもそも、放射線の恐ろしさを印象づけたのは、「70年(75年ともいう)は草木も生えない」という説があったからだと言える。若い人も知っているかな。
広島女学院大の宇吹暁教授によると、原爆投下から2日後の1945(昭和20)年8月8日付の米ワシントン・ポスト紙に、原爆開発計画に加わったハロルド・ジェイコブソン博士のインタビューが載ったのがきっかけらしい。
「原爆で攻撃された地域は70年間死に満ちる」との見出しで紹介された記事だ。宇吹教授が渡米し入手した新聞の写しによると、博士は「原爆の脅威にさらされた地域は約70年間放射線が消えないと実験で示された」と述べている。
これについて米国側はすぐに否定した。計画を指揮したロバート・オッペンハイマー博士が「広島の地上に測定可能な放射能が残っているという根拠はない」と語り、ジェイコブソン博士の発言を取り消してしまった。宇吹教授は「人道的な批判を避けるためではないか」とみる。
では、実際はどうだろう。
「放射線」を出す能力を「放射能」といい、原爆の放射線は爆発時に出る「初期放射線」のほか、(1)初期放射線の一種の中性子線を浴びた地面や建物が放射能を帯びる「誘導放射能」(2)ウランそのものや、ウランが割れてできる核分裂生成物が地上に降る「放射性降下物」―によって出される放射線もある。
一番被害が大きいのは初期放射線。でも、(1)(2)は「残留放射能」と呼ばれ、実際に投下後もどのくらいの期間残り続けたのかは分からないという。
広島大大学院工学研究科の静間清教授(放射線計測)は、「爆心地付近は1年間は汚染されていた」とみる。誘導放射能は約20種類あるが、実際に影響があったのは、十数時間以内が中心で、計算上は「強く影響があるのは100時間。被爆前と同じレベルに戻るのは1年」という。
一方、原爆が投下された後に広島市に入った人の中には、脱毛や歯茎の出血など、計算値以上の症状を見せた人もおり、その差は今の科学でも分からないところらしい。
結局、「今でも汚染されている」というのはありえない話のようだ。(見田崇志)
放射線量の単位で、人体への影響の度合(どあ)いを表す。日本では自然界の放射線などにより1年間に平均1・5ミリシーベルト被曝(ひばく)していると推定される。世界では、2・4ミリシーベルトという。全身に7―10シーベルト浴びると、ほぼ全員が死亡する。