秋祭(あきまつ)りが近(ちか)づき、面作(めんづく)りはさいごの仕上(しあ)げに入(はい)っていた。
「まゆげの書(か)き方(かた)で面(めん)のひょうじょうがちがってくるからね。ていねいに書いて!」
かあちゃんが言(い)うと
「まがってもええんじゃ、こまかいことは気(き)にするな。鬼(おに)でも泣(な)いとるのもおれば、笑(わら)っとるのもおるからおもしろいんじゃ」
と、じいちゃんが言った。
「クラスのみんなが、こんなにいっしょうけんめい力(ちから)を合(あ)わせて、むちゅうになったことはないよのお」
と、ゴリ先生(せんせい)が言った。
秋祭りの日(ひ)がやってきた。
かぐら社中(しゃちゅう)のおじさんたちと、三年生全員(さんねんせいぜんいん)二十五人(にじゅうごにん)が、自分(じぶん)の作(つく)った面をかぶって天神(てんじん)を舞(ま)いはじめた。
ドンドン、ドンチキ、チッチ
とうさんたちが作ってくれたかざりのついた竹(たけ)の剣(つるぎ)や弓(ゆみ)を持(も)って、翔(しょう)もけいくんも野田(のだ)っちも光(ひかる)も、それにゴリ先生も、むちゅうでかぐらを舞った。
かぐら社中のおじさんたちによる八岐大蛇(やまたのおろち)の舞(まい)が始(はじ)まった。
酒(さけ)を飲(の)ませて、よっぱらった大蛇の八(やっ)つの頭(かしら)をうち取(と)ると、かぐらはクライマックスをむかえる。
翔の耳(みみ)もとでかあちゃんが
「翔、見(み)てみいや。じいちゃんの大蛇の頭が舞っとるでしょう。じいちゃんな、また面作るようになったんで…。やっぱり、じいちゃんの面はええわ」
と言った。
何カ月も、たなの上(うえ)でほこりをかぶっていた大蛇の頭は、じいちゃんの手(て)でたましいをふきこまれ、秋祭りのヒーローになっていた。
ドンドン、ドンチキチッチ
かぐらの力強(ちからづよ)いリズムが町中(まちじゅう)にひびいた。
おわり