むかしむかし、山(やま)おくの村(むら)におじいさんとおばあさんが住(す)んでいました。
ある春(はる)の日(ひ)のこと、おじいさんは山の畑(はたけ)の草(くさ)をとりに行(い)くことにしました。
そこで、おばあさんにたのみました。
「おむすびを、ひとつつくってくれないか」
「はい、はい、まかせてくださいな」
おばあさんは、ギュッ、ギュッ、ギュッと、大(おお)きな大きなおむすびをつくりました。
おじいさんはおむすびをせおって、せっせと山道(やまみち)を登(のぼ)りましたが、山の畑についたときにはすっかりくたびれてしまいました。
「やっぱり坂道(さかみち)は、こたえるわい」
せなかの包(つつ)みをおろして、こしをとんとんたたきました。
それから、山の畑を見回(みまわ)して、
「わしのかわりに、この畑の草とりをしてくれるものがおったらなあ。もしも畑をきれいにしてくれたなら、そのお礼(れい)には」
ここまで言(い)ったとき、そばの木(き)のかげからサルが出(で)てきて、あっというまに仕事(しごと)をしてしまいました。
「おじいさん、見(み)てくれ」
サルはとくいげに言いました。
「畑はすっかりきれいになっただろう。このお礼に、むすめさんをひとり、おれのおよめにくれないか」
おじいさんは、こまってしまいました。
「ざんねんながら、それだけはできない」
うでぐみをして、きっぱりとことわると、
「なんだって。さっきは、草とりのお礼をするって、言ったじゃないか」
サルが、おこったように言いました。
「ごめん、ごめん。じゃが、わしにむすめはおらんのじゃ。さっきは、お礼におむすびを半分(はんぶん)あげると言うつもりだったのじゃよ」
おじいさんは包みをひらいて、大きなおむすびをとり出して、半分にしようとしましたが、
おむすび、ガツ〜ン
おむすびはとてもかたくて、なかなかわれません。
「おれがやってみよう」
サルに言われておじいさんがおむすびをわたそうとしたとき、おむすびはころりと転(ころ)がって。