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たゆまず歩む 地域とともに 中国新聞

「いいお産 考」

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 第1部 産む人たちの思い

2.リラックスして
− 誕生の時 妊婦が主役 −

ありのままの自分を出せた


  家族に見守られ安心感

  「お母さん、もう少しよ」「頑張れー」。張り詰めた空気の中、六歳と四歳の娘たちが声を上げる。二〇〇六年十二月十七日午後九時、広島市安芸区の兼定ひろみさん(33)の自宅リビング。兼定さんは、床に敷いた布団の上にひざをつき、苦しそうにかがんでいた。産道から、赤ちゃんの頭が出てこようとしていた。

 「いいよ。その調子よ。息を吐いてー」。助産師は、兼定さんに穏やかに声を掛ける。「はー、はー、はー、はー…」。兼定さんを囲む娘たちと夫の秀宗さん(35)、兼定さんの母からも自然と声が出る。家族の声が優しい和音となって響いた。そして九時六分。「あー生まれたっ」「こんにちはー」。赤ちゃんを一番に迎えたのは、幼い娘たちの歓声だった。

 自宅での出産を終えた兼定さんは「家はやっぱり、落ち着きます」とほほ笑む。「周りがみんな知ってる人で、陣痛がつらいときに、ありのままの自分が出せたし、少々泣いたっていいかなって」。兼定さんが腕を握り続けた秀宗さんも「ママの苦しみが伝わってきたよ」。笑いながら、ねぎらう。

 上の娘二人は、病院の分娩(ぶんべん)台で出産した。でも、何か違和感があった。蛍光灯にこうこうと照らされ、足を広げるのはどうにかならないのか。新たな家族を迎える出産は、自分だけのこととせず、娘二人に見てもらいたい…。テレビで見た自宅出産にピンときた。

 兼定さんを含め、これまで百九人の自宅出産を介助した助産師の前原英子さん(56)=南区=は、豊富な経験から、こう強調している。「心と体が一体になってリラックスしたとき、産む人が主役のお産が始まる。そして陣痛の波に乗ると、お産が進みやすくなる」

 暗くするのも、出産時のリラックスを促す一つの方法という。〇六年六月に自宅出産した佐伯区の工藤亜紀江さん(26)は、陣痛が強くなった夜、真っ暗なまま部屋でうずくまった。「なぜか電気を付けたくなくて」。それからも部屋をあまり明るくせず、陣痛をやり過ごした。生まれたのは午前九時すぎ。カーテン越しに優しく日が差し込む中で、静かに初めての子どもを授かった。「とにかく全くストレスがありませんでした。何もかもが優しかった」と振り返る。

こんなに楽にもう出ちゃった


  湯の効果 陣痛和らぐ

 数は少ないが、よりリラックスしようと、「水中出産」を選ぶ人もいる。難波美穂さん(38)=広島県府中町=は〇五年二月、自宅の風呂で第二子を出産した。

 助産師からの助言もあり、陣痛が強くなって、ぬるめの湯に入った。すると、痛みは半分以下に和らいだ。ひざ立ちになり、「耐えられる痛み」を感じながら過ごした。二時間半後、立ち上がって出産。助産師が風呂の中に手を入れ、赤ちゃんを受け止めた。

 難波さんは「体が楽で、風呂から出る気にならなかった」と話す。

 水中出産に取り組む病院もある。岡山市の三宅医院は妊婦の要望を受け、英国製の専用プール(直径約二メートル、高さ約一・五メートル)を購入。一九九六年から受け入れている。利用は年に一件あるかないかだが、三宅馨院長(60)は「湯につかるリラックス効果で、筋肉が弛緩(しかん)し、会陰の裂傷も少ないというメリットがある」と説明する。

 倉敷市出身の光畑由佳さん(42)=茨城県=は六年前、里帰りして三宅医院のプールで第三子を産んだ。「こんなに楽に、もう出ちゃったっていう感じでした」と出産時を思い出す。

 光畑さんは、プールの利用だけではなく、産む部屋の香りの演出など、自分の希望を細かく病院に伝えていた。「リラックスするのは、安産のこつだと思いますが、どうすればリラックスできるのかは人それぞれ。産む側の希望が伝わってないと、『産ませる側』のペースでの出産になってしまう気がします」(平井敦子、森田裕美)

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出産の場所 国の人口動態調査によると、2005年に生まれた子どもの98.8%は、病院か、診療所での分娩だった。助産所で生まれたのは1.0%。自宅は0.2%にとどまっている。戦後間もない1950年は9割以上の赤ちゃんが自宅で生まれた。その後、医療施設での出産が急増し、60年には自宅、医療施設ともそれぞれ4割になった。自宅出産は、その後も減り続けていたが、最近は微増傾向にある。

2007.1.5