中国新聞


友達ストレス (下)  大人の役割


話聞き心の整理手助け

 「仲間は時間をかけてつくればいいのよ」

 ストレスに耐えてグループに残るか、それとも出るか。女の子たちのぎりぎりの葛藤(かっとう)に、相談の形で立ち会う人たちがいる。

 リーダーに誘われたので親にウソを言って塾を休み、遊びに行った。本当は嫌だった。グループにいるのはしんどい…。

女の子向け雑誌でも「友達のつくり方」はテーマの一つ

 そう話す子に、広島市のスクールカウンセラー林マサ子さんは投げ掛けた。

 大変ね。じゃあしばらく一人になってみる? でも難しければ残ってもいいのよ。どうする?

 葛藤の最中は感情が乱れ、思考も堂々巡りになりがち。そこに冷静な聞き手が入ることで、気持ちの整理ができる。

 「グループに残ること・出ることによって、得られるもの・失うものを自分の言葉であらためて考えれば、問題が見えてくる。主体的な選択がしやすくなる」

■断る練習も

 残ることを選んだ子には、嫌な目に遭った場合を想定し、ノーを言う練習をさせる。「やめて」とか「言わんとって」とか短くてもはっきりとした意思表示。それにより「あの子言うじゃない」と周囲の認識も変わる。

 親へも注文する。グループを出ろとか我慢しろとか指示をせず、とにかく聞いてやってほしい、と。「それだけで九割方は楽になり、自分で現実を動かす力が生まれてくるから」

 友達ストレスを防ぐ手だてを考える人もいる。安佐南区のスクールカウンセラー東岸和子さん(48)が試みているのは「仲間づくりエクササイズ」だ。

 好きな遊びや番組などについてしゃべらせ、共通の興味があることの快さと、そこから親しくなる方法を知らせる。

 「相手の話を聞くと私も話したくなった」「友達はそうやってつくればいいのか」などの感想が返ってくる。

 「今の子はとりあえずの仲間づくりを急ぎ過ぎるから、後できしみが出やすいのではないか。友達は慌てずにワンクッション置いて、時間をかけてつくればいいのよ、と伝えたい」

 コミュニケーションのコツを学ぶことでも、ストレスはかなり防げるだろう。

■スキル磨き

 同市の一部の学校で取り組んでいるのは、感じたことを言葉にしあうトレーニングや、立場を逆にして相手の心を察するロールプレーなど人と通じ合うスキル磨き。市教委指導第二課の中司博之指導主事(学校心理士)は、班での展開を念頭に置く。

 「兄弟や近所でもまれた経験が少ないからコミュニケーションのスキルが乏しい。班という公式集団でコツを学べば、グループという非公式集団でも使えるはず」

 ただこうした方法論はまだ子どもたちに浸透しているとは言い難い。では集団に耐えられず一人になった子はどうすればいいのだろう。

 聞くとそれぞれの工夫があった。「余った子」同士で連合を組んだ。友人のいる隣のクラスや図書館に避難した。クラブで友達を見つけた…。

 一定の居場所を得ると開き直りも可能になる。安佐南区の中三(14)が言う。「クラスで無理にはしゃいでいる子を見ると本心はどうなんだろう、と思う。一人になってから人間ウオッチングを楽しんでいる」

 ただ彼女らにとって痛いのは「かわいそう」とか「性格が悪いのでは」という周囲のまなざし。そうじゃなく、いろんな巡り合わせからたまたま今は集団に入ってないだけよ―という理解が子どもたちの間にあれば、ずいぶん救われる。

 そこをフォローしつつ雰囲気を変えていくのは子どもを取り巻く大人全体の責任だろう。

(編集委員・石田信夫)

上.ハブられぬよう

(2006.5.4)


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