「グループを出て一人になることは怖い」 「グループが明る過ぎてついていけなかった。でも合わせて振る舞ったから、そうとは気付かれなかっただろうけど」 広島市安芸区の中三(14)が二年のころを思い出す。 盛り上がるのは「あの先輩、いいね」などという話。「だよね!」と勢いで同意を求められるとつい「うんうん」と言ってしまう。反論しようものなら「ええーっ?」と言われ、場の雰囲気を乱しそうだった。
ノリのよさを競うような中にいると、楽しさよりも自分がそのまま出せないストレスを感じる。 「でもグループを出て一人になることは怖い。想像もできなかった」 ■排除の力学 休憩のチャイムとともにリーダーの机の周りにメンバーがワッと集まっておしゃべりをする。移動教室も同じ群れ。毎日の学校での風景だ。 そこでぽつんと取り残されるのは相当つらい。だから多くの子が少々我慢してもグループに属している。 では集団にいれば安全かというと、必ずしもそうではない。排除の力学が働くからだ。 六、七人のグループなら「リーダー」「取り巻き」「それ以外」に分類され、時に応じて除外される(ハブられる・ハブかれる)のが「それ以外」―と安佐北区の中三(14)は観察する。 「何かのきっかけで誰かが『あの子ウザくない?』と言い、リーダーが『私もそう思ってた』と言えばもう決まり。でもその子はいつの間にか元に戻り、今度は別の子。常に一人がハブされ、ハブされた子同士で二人組にはなれない」 ■協調求める 西区の小学教師(34)はこうしたグループに「常に誰かを排除して保たれる一体感」をみる。ただ取り巻きでさえ調子に乗ると「はしゃぎすぎ」とばかりに外されることもあり、誰がいつそうなるか分からない。 そうした中で距離を測り、空気をかぎ、身を処していくのはさぞ難儀だろう。なぜそこまで…。 前思春期―思春期は、親から離れつつ心が揺れる時期。だからこそ仲間に認知という支えを求めようとするため、と一般的にはいわれる。さらに女の子に強いのが「関係志向」と春日キスヨ松山大教授が言う。 「男の子には『達成』を求め、女の子には『人との協調』を求める社会の風潮はいまだに強い。だから強迫的に、友達に受け入れられなければと思い込んでいる」 いくら仲間志向が強くても、その中での心の健康度が高ければそう問題はあるまい。しかし専門家は、今の社会を映すグループの負の側面が気になる。 「母親との安心感・一体感の体験が十分得られなくて人格の核がもろい子が増えている。自分中心で共感に欠けるため、リーダーになったら、従わない子に容赦ない」と中区で心理相談室を開く杉原幹夫さん(56)。 「能力次第で人生が決まるという社会の中で、なかなか自信が持てなければストレスがたまる。発散のためのスケープゴートが集団の中で必要になる」と春日教授。 とすればグループはいじめの場、不登校を生む場にもなりかねない。今の女の子の友達環境はおそらく、大人の想像をはるかに超えて過酷だ。 ◇ ◆ ◇ 女の子の世界は、友達関係に極めて敏感だ。仲良しグループの中で自分の位置を確保できるかどうか。とりわけ小学五、六年から中学にかけては、それが死活問題といっていい。しかし人間関係の中では葛藤(かっとう)も渦巻く。新学年が始まって一カ月。子どもたちの「友達ストレス」に耳を傾けてみる。(編集委員・石田信夫) (2006.5.3)
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