広島市内の待機児童が4月1日時点で過去最多の372人に達したことが分かった。このところ増加の一途をたどる。 認可保育所の定員がいっぱいで、要件は満たしているのに入所できない子どもの数を指す。同じ政令指定都市の横浜市が先月、「待機ゼロを達成した」と発表しただけに落差が際だつ。 広島市は子ども施策総合計画で「2015年4月までの待機児童ゼロ」を掲げているはずだ。逆に目標から遠ざかっているのは何とも悩ましい。 なぜこういう状況に至ったのか。不況で共働きを望む母親が年々増えたことが大きな背景にあろう。家計の事情で働きたい親や、育児休業後の職場復帰を控えた親たちである。 だが、いくら保育所定員を増やしても入園希望者の伸びに追いつかないのが現状という。市は結果が伴っていない事実を重く受け止めるべきである。 対策を考える上で、横浜市はモデルケースとなるのか。 2010年の段階で、横浜は全国の市町村で最多の1552人の待機児童を抱えていた。このため積極的に対策に取り組み、保育所定員を約1万人以上増やして「ゼロ」を達成した。 「横浜方式」と呼ばれる手法の最大の特色は民間の力をフルに生かすことだ。市有地のあっせんや開業時の助成金を手厚くすることで参入を促した。現在は認可保育所の4分の1までを民間企業の運営が占める。 ただ、それでも足りない。受け皿として認可外施設を計算に入れたことも大きい。保育室の広さや保育士の数で独自の緩い基準を設け、「横浜保育室」と名付けて活用した。 また要望に応じて空き施設を探す「保育コンシェルジュ」も一定の効果を挙げたようだ。 何より後押しとなったのは林文子市長のリーダーシップだ。この3年の対策予算は490億円。財政に大きく響くことは承知の上で優先順位を上げた。 半面、横浜方式をめぐっては懸念も示されていることも頭に置きたい。熟練した保育士の不足は明らかであり、「保育室」も面積が狭く、子どもを預かる環境では見劣りする。 17年度までの待機児童ゼロを成長戦略に盛り込む安倍政権は横浜方式を「成功モデル」として全国に広めたいという。だが地域によって事情は違うはずだ。そもそも民間参入の門戸を広げたとしても、地方では首都圏の横浜ほど名乗りを上げる企業がないかもしれない。 親の働き方や保育のニーズは多様化している。広島市としては横浜から習うべきことは見習い、実際のニーズに即した対策を急いでもらいたい。 既に横浜の「コンシェルジュ」を参考に、4月から各区役所に相談員を配置したことは評価できる。一方で認可外施設の活用については「保育の質の保証がない」などと消極的である。一理あろうが、わが子を預けられずに途方に暮れる親の声を十分に聞いて対応を考える姿勢も必要ではなかろうか。 むろん対策予算が全国でも突出している横浜のような出費が難しいのは確かだ。だが深刻な課題と認識し、できる限りの財源とマンパワーを投入するよう施策全体の中で優先順位を上げることはできるはずだ。これまで以上の熱意が求められる。 (2013.6.2)
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