広島県北広島町では10日から、子ども手当の口座振り込みが始まる。山口泰子さん(35)方では、小1の長男(6)と保育所に通う長女(4)が対象だ。1人当たり月額1万3千円の4、5月分で、計5万2千円になる。 民主党マニフェスト(政権公約)の柱で、政権交代の原動力になった。山口さんは、手当を生活費に充てるつもりはない。専用通帳をつくり、息子と娘の教育費や急な出費に備える予定だ。「当たり前の収入だと思わないようにしたいから」 東京都出身の山口さんは7年前、夫(42)の実家へ一家で移り住んだ。景気に左右される自動車部品製造会社に勤める夫。昨春以降、残業は減り、休みが増えた。今、山口さんは週3、4日、事務のパート勤務に出る。 住宅ローン、ガソリン代、保育料…。ぜいたくをしているわけではないが毎月、家計は赤字と黒字の境目をたどる。子どもが成長するにつれ、教育費も増えていく。 昨夏の衆院選の際、子ども手当をめぐり心が揺れた。民主党は中学卒業まで1人当たり「月額2万6千円の支給」を公約。思わず計算機でわが家の額をはじいた。すがりたい気持ちがあった。一方で「子どもたちの将来にツケを回すだけでは」と不安も膨らむ。 そんな時、町内のママ仲間から話を聞いた。「口座に、お金が振り込まれとったんよ」。自公政権時代に決まり、昨年4〜10月に支給された「子育て応援特別手当」だった。3〜5歳の第2子以降を対象に、1人3万6千円。山口さんには、特別手当も子ども手当も、選挙対策用のバラマキに映った。 手当で、子どもを安心して産み、育てられる社会が実現するのか―。産科・小児科の医師不足や、保育所の待機児童問題の方が気になる。結局、自民党に1票を投じた。子ども手当の魅力よりも、場当たり的に見える政策への疑念が勝った。 「目的とは違う使い方をされる場合も多いのでは」。同居する義母の静代さん(66)は、夫(68)との共働きで息子2人を育てた。今は景気が低迷し、子育て世代の不安定な暮らしも分かる。ただ、年収に関係なく、一律に手当は支給される。静代さんは国が「甘え」を誘導しかねないと懸念する。 子ども手当の対象は全国で1735万人。本年度の給付総額は2兆2554億円に上る。公約通り来年度から満額支給されれば倍額になる。財源確保の難しさに直面した民主党は、参院選の公約には満額支給を明記しない方針でいる。 山口さんは、民主党の「公約修正」を当然視する。一方で、その公約は、子育て世代を中心に多くの1票を引き寄せた。公約の意味合いが軽くなってしまわないか、心配でもある。「求めるのは将来にわたる安心感」。山口さんと静代さんは、投票先を判断する公約に同じ思いを重ねる。 (2010.6.2)
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