【社説】鳩山政権の目玉政策である子ども手当法が成立し、来月1日に施行される。2010年度に限り、中学卒業までの子ども1人につき月額1万3千円を支給する。 マニフェストで約束した額の半分だが、11年度からは恒久法を整えて満額支給するという。高校無償化と併せて、これまで後回しとなりがちだった日本の子育て政策の大きな転換といえる。 あすの社会を担う子どもたちのすこやかな育ちを支援する―。少子化が進み、児童への虐待も相次ぐ中、社会全体で子どもを育てようという趣旨そのものに対しては、共感する人も多いはずだ。 従来の児童手当は、両親がいなかったり不明だったりして福祉施設で暮らす子どもには支給されていなかった。こうしたケースも、子ども手当と同額が「安心子ども基金」から支払われる。子どもが育つ権利を重視している点は評価したい。 ただ気掛かりなこともある。財源に充てるために所得税の配偶者、扶養控除が廃止され、子どもがいない家庭などでは負担が増えることだ。 納得できる説明がなければ、不公平感が生じるのも当然である。今月半ばの世論調査で、子ども手当と高校無償化に対する評価がほぼ二分されていることも、十分に理解されていない表れと受け止められよう。 制度自体の問題点も浮き彫りになっている。日本に住む外国人にも、母国に残した子どもが一定の要件を満たせば支給される。一方で日本人であっても海外在住の場合には支給されない。国民感情からすれば違和感がある。 にもかかわらず政府は年度内成立にこだわるあまり、こうした問題の解決を先送りしてしまった。初めての支給を夏の参院選前に間に合わせたいためではと、勘ぐられても仕方があるまい。 これから始まる11年度以降の制度設計では、あらためて社会全体で理念を共有したい。そのうえで問題点を解決しながら、持続可能なより良い制度につくり上げていくべきだ。 ポイントはいくつかある。満額支給には約5兆3千億円が要るという。税収が落ち込む中でどう財源を確保するのか。累進課税の強化などに加え、消費税の論議も避けて通れまい。 さらに現金支給だけで少子化対策は十分なのか、という点も問い直す必要がある。昨年10月時点の保育園の待機児童は約4万6千人と、深刻な不況で共働きが増えたこともあって過去最多になっている。大都市部などでの保育サービスの充実は待ったなしだろう。 子育てしやすい地域づくりという視点も求められる。子育ての助け合いをするファミリー・サポート・センターの拡充や無認可保育園への支援など、きめ細かなサービスへの目配りも不可欠だ。 限られた財源の中で何を優先すべきか。「打ち上げ花火」に終わらせないためにも、満額支給の是非も含めた議論を深めたい。 (2010.3.30)
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