【社説】産みやすく、育てやすく、親子がのびのびと暮らせる社会をどうつくっていけばいいのか。きのうの「こどもの日」に寄せて、あらためて考えてみよう。 総務省によると、全国の15歳未満人口は29年連続で減った。4月1日現在、総人口に占める割合は13・3%。世界最低の水準だ。 今の20〜30歳代は「氷河期」と呼ばれた就職難や非正規労働の増加など時代の波にもまれ、雇用不安にさらされてきた。子育てを始める世代のはずが、将来を見通しにくいため、結婚や出産に二の足を踏む傾向が強いのではないか。 内閣府の調査で、子どもを持つことへの不安として4人のうち3人が「経済的負担の増加」を挙げたこともそれを裏付ける。 あすの社会を担う子どもを社会全体で支える―。鳩山政権の子育て支援の理念だ。昨夏の衆院選で「子ども手当」や「高校無償化」をマニフェストに掲げた民主党が政権交代を果たしたのも国民の思いをくみ取っていたからだろう。 子ども手当は本年度、マニフェストで約束した額の半分、1人月額1万3千円の支給が始まる。欧州では同様の制度を導入し成果を挙げた国もある。方向性は間違っていない。 ただ、総額5兆円を超える満額支給には疑問が残る。政府は今後5年間、保育所定員を年5万人の割で増やすなどの「子ども・子育てビジョン」もまとめたが、年間7千億円と見込む費用の財源を示せなかった。手当増額よりむしろ、これらサービスの充実が必要ではないか。 親が安心して働けるよう質、量ともに保育の充実を求める声は強い。昨年10月時点の保育所の入所待ちは4万6千人で過去最多。生まれてきた命をはぐくむ環境を整えるのは社会の義務である。 子どもをめぐる問題で最も深刻なのは保護者による虐待だ。昨年3月までの1年間に全国の児童相談所が受けた相談は4万件を超え、18年連続で増えた。今年も痛ましい虐待死が相次いでいる。 地域や親族とのつながりが薄れ、貧困の拡大が人々の孤立に拍車をかける現代社会。幼子を抱えた親が助けを求めにくい。周囲は気づいても手を差し伸べにくい。そんな世の中をどう変えていくのか、行政を含め私たちに突きつけられた課題である。 地域で児童福祉を担ってきた民生・児童委員のなり手不足も深刻だ。政府は、子育て支援拠点を増やすなどの対応を挙げるが、それだけでは不十分だろう。 広島県内の一部では、社会福祉士を小学校へ配置する試みも始まっている。教員の目が届きにくい家庭の状況をつかみ、保護者と対話を重ねる。必要があれば、医療機関や福祉の窓口につなぎ、地域で力を借りられる人も見つける。こうした仕組みが広まれば、救われる子どもは多いはずだ。 行政の支援を拡充しながら、子育てNPOも巻き込んでいく。子どもを取り巻く人間関係を地域で紡ぎ直す態勢を整えたい。 (2010.5.6)
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