中国新聞


安全通学への道<下> 呉小1バス事故1年
試練の交通局 職員同乗、児童に目配り
基本怠る事故やまず


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「足下気をつけて」。降車マナーを教えるのも同乗する市交通局職員の仕事だ

 広小の新1年生もバス通学を始めたばかりの8日。呉市営バスで下校する児童に、先に降りた市交通局の職員が声を掛けた。「気をつけてね」「バスから飛び降りないでね」。迎えに出た保護者が児童と手をつないでいると確認し、職員は再びバスに乗り込んだ。

 交通局は昨年の女児死傷事故後の約1カ月間、広小の児童が利用するバスに職員を同乗させ、安全に目配りした。今年も登下校時に当面続ける。野見山克宏総務課長は「乗り降りに慣れるまでの期間も安心して乗ってもらうため」と説明する。

 ただ、通学に路線バスを利用するのは広小だけではない。市教委によると、市内では千人を超える児童が使う。交通局全体の地道な事故防止策が、通学路での悲劇を防ぐための一歩になる。

 交通局は今年に入り、車内外の様子を録画するドライブレコーダーを路線バス全166台に設置。バスが急ブレーキや急発進した際に記録が残る装置も設置し、乗務員ごとに安全運転度を点数化するようにした。

 一連の対策の狙いは「乗務員の意識改革」だ。一人一人の運転や接客態度を映像や数字で記録するため、苦情への言い逃れやマンネリ運転ができなくなる。「自分の点数を毎日聞いてくる乗務員もいる」と効果も出始めた。

 一方、市営バスが昨年度(1月末現在)に起こした人身事故は5件で、前年度比3件増。発進時にアナウンスをしないなど基本作業を怠った事故ばかりで、野見山課長は「信じられないことだ」と肩を落とす。

 事故の続発は交通局の信頼を揺るがす。昨年末、市内のバス停で降車中に腕をドアに挟まれ約30メートル引きずられた女性(81)は「原因は女児の事故と同じ乗務員の不注意。交通局は全然変わっていない」と不信感を隠さない。

 昨年の事故で死亡した広小の女児=当時(6)=の父親も、弁護士を通じ「きちんとした再発防止策を提示すべきだ」と求める。

 道幅の狭さや増える交通量など、通学路には今も危険が多い。「他の路線以上に通学路では気をつけるよう乗務員への指導を徹底している」。4月に就任した明岳周作副局長は覚悟を強調する。その覚悟は不注意事故を無くすことでしか証明できない。(加田智之、根石大輔)

(2010.4.9)

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