中国新聞


級友が先生 学び合い
益田全市で実践へ


 益田市教委は、子ども同士が意見を出し合って授業を進める「学び合い」で、学校改革に取り組んでいる。2008年度から拠点推進校5校で実践。計画では3年間で市内の全小中学校31校に広げる。導入から1年、成果と課題を探った。

 ▽発言増え意欲向上 教員に刺激も

 拠点推進校の一つ、吉田南小で算数の公開授業があった。6年生32人が単位量を学んだ。お互いの表情がよく見えるよう、児童の机はコの字形に並ぶ。

 「ガソリン40リットルで520キロ走る車、40リットルで480キロ走る車、30リットルで480キロ走る車。少ないガソリンで走るのはどの車かな」。中村徹教諭(39)が問い掛けた。問題の意味が分からず、考えるのをあきらめた児童もいる。「話し合ってみようか」。中村教諭の声で、男女4人の小グループになった。

 ▽教えながら知る

 「どうすればいいのか教えて」。コの字形の時、うつむいていた児童だ。聞かれた児童は「距離をガソリンの量で割るんだよ」と教える。「なぜ割るの」と再び聞かれ、答えに詰まる。別の児童が「1リットルで走れる距離が比べられるからさ」と説明を継いだ。

 見守っていた中村教諭がうなずいた。少人数なら「分からない」と聞きやすい。教える方も人に説明する中で自分の理解が足りないことに気付く。別の意見を聞いて理解が深まる。これが「学び合い」の一端だ。

 「では、ミカン3個120円と4個120円ではどちらがお買い得かな」。補助の原浩教諭(55)が全体学習に戻した。簡単な問題で児童の頭を整理させる狙いだ。「1個が何円か計算すれば、分かるよね」。全員がうなずく。「次の問題は宿題だ。63キロのイモが取れる広さ50平方メートルの畑と108キロ採れる80平方メートルの畑では、どちらがよく取れる畑かな」

 ▽高い課題レベル

 数字が細かく、問いの設定も難しくなったので、みんなが頭を抱えた。実は、この難しさがやる気を引き出す秘密という。全員が分からないから協力する姿勢が生まれる。「みんなが努力する中、自分だけ分からなかったら恥ずかしい」というプライドを刺激し、あきらめやすい児童の「背伸び」も促す。休み時間も話し合いが続いた。

 授業は成功したように見えたが、見学した他校の教諭を交えた研究協議では批判も出た。「初めに簡単な例題を示した方が理解は早いのではないか」「1リットルで走れる距離に着目した児童がいたなら例題は不要だ」。原教諭は「全員が理解できていないと思い、途中で正しい考え方をまとめた。それがよかったのか分からない」と打ち明けた。

 ▽人間関係育てる

 市教委が「学び合い」を導入した狙いは教員の指導力アップにもある。大規模校では不登校が増加。少子化で小規模校が増え、人間関係が硬直化している。取り残されている子はいないか。学年を超えてコミュニケーションがとれているか。教員の気配りとサポートが問われる。

 三浦正樹教育長は「一番変わったのは教員かもしれない。自分の教員時代、学校や教科を超えて議論することはなかった」と話す。

 まだ試行錯誤の段階だが、子ども一人一人の表情を見ながら授業内容を議論する姿に、学校改革の芽が育ちつつあるのを感じた。(岡本圭紀)


クリック 学び合い 東京大大学院の佐藤学教授が提唱する学校改革。児童・生徒が意見を出し合いながら授業を進めることで、発言機会が増え、学習意欲が高まるとされる。1998年、神奈川県茅ケ崎市の浜之郷小で始まり、中学では2001年、静岡県富士市の岳陽中が導入。現在は全国の公立小中学校の1割に当たる約3千校が実践している。


外部指導講師の佐藤雅彰さんに聞く
一緒に達成する喜び

 益田市教委の外部指導講師で、静岡県富士市の岳陽中元校長佐藤雅彰さん(65)に「学び合い」を取り入れた改革について聞いた。

 ―「学び合い」を導入するメリットは。

 学びはコミュニケーションだと考える。モノや他人、自分自身と対話する中で成り立つ。だが今は個人を競争させる「勉強」ばかり。勉強が嫌で逃げている子の居場所を学校につくること、みんなで高め合う本来の「学び」の場が必要だ。

 ―学力は向上しますか。

 1人では到達できない所に、協力してたどり着く喜びを感じさせることが大切。課題のレベルは高い方がいい。小グループの活動で、基礎が理解できている子、できていない子の溝を埋めれば、みんなが課題に向かってジャンプする。

 ―益田市教委の取り組みをどうみますか。

 拠点推進校の授業を他校の教員が見て、理念やノウハウを持ち帰る手法がいい。急に押し付けたら教員は反発する。私が校長時代に導入したときは、1年かけて理解を得た。

 ―「授業研究をする余裕がない」との声もあります。

 部活動や学校行事、生活指導など教員は忙しい。授業研究を加えたらパンクする。管理職は教員の仕事を減らす努力がいる。保護者や地域に仕事を担ってもらうことも必要になる。授業を変えるには、学校全体を改革する覚悟がいる。

(2009.7.6)

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