【社説】 今年で三回目になる文部科学省の全国学力テストが行われた。これまで不参加だった愛知県犬山市が加わり、公立校だけでいえば、初めて全部の学校が参加した。しかし効果について多くの疑問も挙がっている。六十億円も使って毎年やり続ける意味があるのか。そろそろ原点に返って考えなければなるまい。 背景にあったのは子どもの学力低下だ。全国データをとることで、国や教育委員会、それぞれの学校が、取り組む課題がつかめるはず。それをよりよい指導につなげようというのが、テストの目的だった。目的は達せられているのだろうか。 過去二回のテストでは、例えば「知識の活用に難がある」といった共通の課題が浮かび上がった。「早起きの子どもは成績が良い傾向」といった生活と学力のかかわりも確認された。ただ「巨額の金と労力を使わなくても分かる当たり前のこと」との声も出ている。 ではテスト結果が一人一人の学習指導にきめ細かく役立てられているのだろうか。対象となっているのは小六と中三。九月ごろに結果が発表され、卒業までに「成績アップの工夫をしろ」と言われても、先生がすぐに対応するのは難しかろう。 確かに、都道府県の順位が一覧となれば序列が分かる。大阪府知事が「教育非常事態」を宣言したように下位の自治体に危機感を持たせる「効果」はあるに違いない。 しかし都道府県ごとの全国的な位置付けは、数年に一度のサンプル調査で十分把握できる、と専門家は指摘している。全国の小学校長を対象にした調査でも、ほぼ半数は抽出方式でいいとしている。 正答率など数値や順位にばかり注目が集まる「一斉」ゆえのデメリットも広がっている。市町村別の結果を知事らが公表する動きもある。このままでは、テストの点数を上げる「工夫」が広がり、競争が過熱して中止になったかつての学力テストの二の舞いにもなりかねない。 テストの結果で文科省が注目すべきは二年続けて成績の良かった秋田県だ。独自の基準で、小学校低学年と中一で少人数学級を導入している。日本の国内総生産(GDP)比の教育予算は、経済協力開発機構(OECD)諸国でも最低クラスだ。限られた予算の中だからこそ、一斉テストより優先順位の高いものはないか考えるべきだろう。 (2009.4.26)
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