結ぶ
児童虐待につながり得る、親子間の小さなほころび。そんな兆しに、医師と行政が連携して対応する取り組みが東広島圏域(東広島市、竹原市、広島県大崎上島町)で進む。親子の様子を医師が行政に書面で伝え、必要なサービスにつなぐ。育児不安や孤立感の解消に役立っている。 六人の保健師がいる竹原市保健センター。「医師と行政の距離がぐっと縮まった」。主任の桐谷佐智子さん(40)は、医師との連絡内容をまとめたファイルを手に胸を張る。 仕組みは簡単。乳幼児健診や予防接種の際、親子から感じた「気になる点」を医師が連絡票に書き込み、保健センターに提出する。受け取った保健師は十日以内に親子を訪ねて対応。その内容を記入した返信票を医師に渡す。互いに言いっぱなしにせず、情報の共有を大切にしている。 医師に求められるのは、かすかな予兆を見逃さないこと。抱っこや授乳の際の邪険な扱いや、子どもの健康に対する過剰な不安など、小さな言動に注意する。ただ、保健師に連絡する際は必ず親の同意を得ている。「保健師は困っている親の味方」と医師が丁寧に説明すると、大半の親は応じる、という。 保健師に大切なのは人間関係づくりだ。何度も訪問し、困っている原因や願いを聞き取っていく。地道な取り組みである。 県東広島地域保健所(東広島市)が中心になり、二〇〇三年に竹原市でスタート。東広島市にも広げてきた。連絡票のやりとりは年間約三十件。対応はさまざまだ。 相談相手がおらず、悩みを抱え込む親に子育てサークルを紹介したり、産後うつと判断し精神科の受診を勧めたり…。経済苦から育児不安を訴える親に、生活保護の受給方法を伝えることもある。医師や保健師のまなざしは、孤立を深める親の不安を和らげてきた。 同保健所保健課の桐山美紀子課長は「連絡票を交わし、十日以内の対応を約束することで、行政と医師の双方に緊張感と責任感が生まれた。これからも工夫を重ね、孤立から虐待に至る不幸な事例を防ぎたい」と強調。広島市も〇六年から全市域で同様の対応を開始。早めの対応で虐待の芽をつみ取ろうとする動きは広がりを見せている。(石川昌義) (2008.12.13)
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