中国新聞


先生 多忙な夏休み
新制度続々 対応急ぐ


 子どもたちが大好きな夏休みも先生たちは忙しい。新しい制度が次々と導入される教育現場。その「変化」に対応できるかどうかは、夏休みの過ごし方にかかってくる。研修や学習指導に励む先生たちの夏休みを追った。(田中美千子、見田崇志)


■2学期制「つなぎ補習」  学ぶ習慣をサポート

 「先生、この問題が分かりません」「こっちもー」。元気な声が聞こえてきた。広島市中区の基町小。夏休み中、学年ごとに六―九日間の「学習会」を開き、希望者や勉強のサポートが必要な児童を受け入れている。

 六年は毎回、全三十二人のうち十―二十人が訪れる。担任の岡上美紀教諭(28)は引っ張りだこだ。「分からないところがすぐ聞けて勉強がはかどる」と原優紀子さん(12)。中祖莉佳さん(12)も「友達とも教え合えるしね」と声をそろえた。

 広島市では昨年度、大半の市立校が二学期制に移行。夏休みは「前期の一部」となった。だが、休みによって学習が途切れると学力定着へのダメージは大きい。夏休み中に補習を開き、継続的に学習するよう働き掛ける学校も少なくない。

 基町小の場合、休みの前に三者面談も実施。それまでの学習や生活上の課題を振り返り、休み中の学習目標や一日の過ごし方を一緒に決める。保護者にも、家庭学習をバックアップしてもらいたいからだ。そして学校は、学習会を通じて目標達成を応援する。

 もともと、二学期制は教師の負担を減らす狙いもあった。始業・終業式などの回数を減らして授業数を確保。通知表を付けるのも二回ですむ。でも、夏休みを「空白の時間」にしないためには、同小のようなきめ細かなフォローが必要となる。現場には負担が減ったという実感は乏しい。

 それでも、岡上教諭は「休み中の学力低下をなるべく防ぎ、自学自習の習慣も身に付けさせたい。中学入学を控えた大事な時期ですしね」と意欲的だ。「勉強の仕方が分かってきた子もいる。休み明けにどれだけ宿題が集まるか、楽しみになってきました」


■英語塾  教科化控え発音から

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講師のチェックを受けながら、発音練習を繰り返す小学校教諭たち

 「自身のスキルアップ」も、夏の大きな課題だ。二〇一〇年度、すべての市立小に英語科の授業を導入する広島市。市教委は、こんな講座を開いた。「教員のための英語塾」。約三百人が受講した。

 四日間、安佐南区の安田女子大に通い、計二十四時間の“特訓”を受ける。まずは基礎的な発音練習。「勢いよく息を吐いて」「舌の先を丸めましょう」。講師やネーティブスピーカーの口元を見つめ、大声で英単語を繰り返す。若手も、ベテランも。

 英語科は、市が国の特区認定を受けて導入する新教科。五、六年が対象となる。授業は英語が堪能な非常勤講師らとペアを組んで進めるものの、学生以来、英語に触れていない担任も多い。英語力アップは急務だ。

 「やっぱり発音が課題」と仁保小の清水弥生教諭(31)。「高学年を受け持つ時に備えて、今からしっかり鍛えないと」

 牛田新町小の竹部敦司教諭(42)も「子どもが英語好きになるかどうかは、授業の『味付け』にかかってくる。責任重大です」と気を引き締める。「児童をあきさせない授業法を学んで同僚にも広めたい」と力を込めた。


■教員免許更新予備講習  座学・試験 みっちり

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岡村教授(左端)の講義を受ける教員

 来年度から、教員免許の更新制が始まる。一定の年齢に達した先生は、免許を更新するために三十時間の講習が義務づけられる。大半が夏休みに実施される見通しだ。本格導入に先駆け、山口大で十九日にあった「予備講習」をのぞいた。

 「筆圧など見えないものも視覚化すれば、児童は直観的に理解して、書道の上達具合が全く違ってきます」。山口大教育学部の岡村吉永教授が、筆圧や筆運びを自作ソフトで解析し、動きを波紋のように浮かび上がらせるイメージ画像を示してながら語りかけた。メモを熱心に取る百五十人の教員からは時折、驚きの声が上がった。

 情報通信技術(ICT)を活用した学習方法や、子どもを取り巻くネット社会事情のほか、教育心理などみっちり計六時間。講習を修了するには試験も必要で「教員採用のとき以来で緊張した」「大学時代に戻ったみたい」との声が漏れた。

 山の田中(下関市)の坂本康則教諭(42)は「教員に求められるものが変わってきていると実感した。タイムリーで参考になる」。サッカー部の遠征先の大阪から前日深夜に帰宅して参加した。

 予備講習は、免許更新に必要な三十時間の講習の一部に算入される。六月末現在、全国百十八の大学や教育関係法人が担当している。

 山口県内では今月中、県内三会場で山口大など九大学が連携して計画。当初見込んだ計九十人の参加に対し、約七百五十人の応募があったため、受け入れを四倍以上の三百八十人に増やした。

 しかし、来年度からの本格講習の内容については「まだ模索中」(大学関係者)の状態だ。会場でも「生徒指導などもっと実践に役立つ内容もしてほしい」(山口市内の男性教諭)という声も目立った。

 大学が蓄積する理論と、実践を重視する教員のニーズのバランスをどう取るか。先生に新たに課せられる「夏休みの宿題」。中身が固まるのは、これからだ。

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