11年度から必修化 技術より動機付け重視
小学校高学年の「外国語(英語)活動」が二〇一一年度から必修になる。〇九年度から二年間の移行期間を前に、広島県教委は教員研修をスタート。既にモデル校で高学年の「英語科」を導入している広島市教委は、一〇年度の全校展開に向けて準備を加速している。指導態勢を不安視する声もある中、教師たちの備えが少しずつ本格化し始めた。(松本大典) 歯切れのよいネーティブイングリッシュに、二十人ほどの男女が一斉に続く。「グッド イブニング」「ハウ アー ユー」。広島市中区の幟町小。復唱するのは児童ではなく教員である。 会議室での「ティーチャーズ英語塾」。溝部ちづ子校長(59)らが全教員に呼び掛け、六日から始めた。英語に対する教員の苦手意識をほぐすのが狙い。英会話の「いろは」を学ぶという。外国語指導助手(ALT)のキット・ウェンズリーさん(33)が来校する毎週金曜の放課後に、十五分程度開いていくつもりだ。 同小は、市教委が試行中の「英語科」の研究開発校。カリキュラムや教材、評価方法の「実験」に取り組んで一年がたった。 ▽最初の授業で涙 英語指導の資格を持つ教員は一人もいない。「うまく発音できず、情けなくて…」。推進役の田中雅美教諭(40)は一年前の最初の授業で涙をこぼしたという。 保護者70・7%、教員36・6%―。〇四年の文部科学省の調査で、小学校英語の必修化を望んだ人の比率である。小学校の教職課程に英語指導に関する科目はない。「ほんとに自分たちが教えていいのか」「高学年の担任は鬼門」。市内の教員からはそんな声も漏れる。 五日、福山市の広島県福山地域事務所で県教委が初めて開いた外国語活動のリーダー研修。「教員の研修は最重要課題。きついけど何とか時間を割いてほしい」。県東部から参加した約百人の教員を前に担当者が訴えた。 研修は、ALTとのチーム・ティーチング(TT)や指導案づくりなどの演習が中心。県内三カ所でそれぞれ年内に三回開き、受講者には勤務校で計十五時間、同僚教員の研修会を開かせる。来年度も受講者を入れ替えて継続する予定だ。 県教委指導一課の北川千幸指導主事(48)は「できるだけ多くの先生に指導のイメージを浸透させないと、異動のたびに慌てる」と強調する。 ▽私立には専任者 一方、私立小に目を向けると、県内の全七校が全学年で英語教育を実践。自前の外国人指導者や英語教員の免許を持つ教諭を専任で置く。一九九七年に小学校英語を必修化した韓国では、担当教員に百二十時間の研修を課すという。日本の公立小の英語教育の体制を疑問視する専門家は多い。 これに対し、文科省は外国語活動の目標を「コミュニケーションの素地を養うこと」と強調。「担任教諭は進行役。発音などはALTらに頼ればいい」と役割分担を説き、教諭にはむしろ「下手でも積極的に英語を使うお手本になって」と注文する。 中学生の約四割が入学から一年で英語に拒絶反応を示している―。こんな県の調査結果を踏まえ、広島市教委は、国の構造改革特区の認定を受けて〇七年度からスタートさせたモデル校の英語科で「スキルより動機付け」を重視する。 二年間のカリキュラムでは、歌やゲームを通して身近な五百単語に触れ、言葉のルールに気付かせる仕掛けをちりばめる。モデル校でのアンケートでは、児童の八割以上、教員の九割以上が好感触を示したという。 再び、幟町小―。「楽しい」「先生のテンションが高くなる」。英語科の授業を終えた六年生たちが集まり、感想を口々に教えてくれた。休憩時間が終わり、五年生の教室を訪ねた。「発音は今も自信がない」という田中教諭が、堂々と声を張り上げていた。「ハウ アー ユー!」
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