中国新聞


大学全入時代 あえぐ中国地方<下>
活力創出 増す存在感
自治体に連携・支援の動き


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広島大が昨年11月に実施したAO入試。受験人口の減少を背景に面接と小論文だけの入試を広げ、全11学部が導入。昨年春では新入生の13%を占めた

 山口大の県内生産誘発額は年間六百六十七億円―。文部科学省が日本経済研究所(東京)に委託し、昨年三月にまとめた試算値に山口大自らが驚いた。平田博教総務課長(42)は「研究や人材育成に加え、大学が持つ地元貢献を知ってもらえる絶好のデータ」と受け止め、県や岩国商工会議所などとの交流会で詳細を積極的に説明している。

9000人の雇用生む

 試算は、学部生・院生約一万人と教職員約四千人の消費額も織り込み、県内で生み出している雇用は九千人、地元への税収効果は十一億六千万円とはじく。全体の生産誘発額は、宮城県が試算したプロ野球楽天イーグルスの設立時の経済効果の約六・七倍にも当たる。

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 国立大が地元にもたらす経済効果についての初の検証は、文科省が財務省へのけん制を狙った。

 国立大の運営費交付金は四年前の法人化を機に年1%ずつ減額され、研究実績に応じた配分が検討されている。この「成果主義」の導入に危機感を覚え、弘前、群馬、三重、山口大の四校を対象に試算。大学の存在価値と地域貢献を学外に数字で分かりやすくアピールしたともいえる。

 「自治体は、若者を地域に呼び込み活力を生む大学にもっと関心を持ってほしい」と、「教育ネットワーク中国」代表幹事で広島修道大の市川太一教授(59)は唱える。

 ネットワークは一九九八年に発足し、鳥取を除く中国地方四県の国公私大・短大など二十七校が加盟。単位互換や高校生向け公開講座の拡充に力を入れるが、「広島市でも学官の連携には至っていない」と市川教授。

 大学の数がほぼ同じの政令市でみると、別表のように、広島市の学生数は約三万人と最も少ない。全国の学生総数が大幅に増えているにもかかわらず、この十年間で逆に減っている。都市としての吸引力の低下は、学生数にも現れている。

 高校や予備校の進路担当者らは「広島は百万都市とはいえ魅力のある大学が少ない」という。だが、減り続ける十八歳人口の流出が続き、しかも中核都市の吸引力が衰えれば、地域全体の活力低下や人材難につながる。

求心力向上狙う

 ここに来て、広島県は対策に本腰を入れようとしている。県の重点施策で初めて「高等教育の魅力向上」を三月にまとめる行政指針に盛り込み、地元大学との連携促進や国内外からの学生受け入れに取り組み、広島の大学の求心力アップに努める。「県は県立大のことだけを考えていればいいという時代は終わった」(石田文典学事室長)

 中四国最大の総合大である広島大(東広島市)でも、前年度の一般入試志願者は約一割減をみた。教育学部の後期試験では一部専攻で受験者がゼロとなった。「高等教育の魅力向上」という目標は、もはや私大だけの問題ではない。

 広島大高等教育研究開発センター長の山本真一教授(58)は「全入時代で大半の大学が入りやすくなった。入試の難易度で大学の実力はもう計れない」という。今、大学に問われているのは「いかに本物の学士力を付けさせ、社会に送り出すかだ」と指摘。また「学生の質の高さが、その大学の実力や魅力の証しである」と説く。

 若年層の大都市圏への集中が進む中、受験生や保護者らの期待に応える教育に努める大学は、生き残るに違いない。魅力ある大学であれば地元や他の地域からも関心を集め、支持されるはずだ。 (藤村潤平)

(2008.1.13)


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