学生確保 あの手この手 AO入試・社会人枠に活路 制服姿の高校生が、冬休みのキャンパスに続々と集まってきた。入学前教育に参加するためだ。広島市東区の比治山大は、アドミッション・オフィス(AO)入試の合格者を対象に、全国の大学でも珍しい単位を認定する入学前プログラムを昨年から始めた。 二〇〇八年度に入学するAOの合格者は、前年度の約二・六倍の百二十人を出した。大幅に増やしたのは、同大が一九九四年に短大から四年制へ移行して以来、前年度で初めて陥った定員割れが絡む。「AOは広島エリアで過熱している。大学を健全に運営していくためにも対抗せざるを得ない」。経営企画を担う金野伸雄副学長(58)は大学としての危機感を表す。 志願者の意欲や能力を面接で評価するAO。国内に導入された九〇年代は低調だったが、十八歳人口の減少に連れて逆に高まった。前年度は私大の七割に当たる四百二校と、国公立大の五十二校が実施。各大学が「十一月に解禁」と申し合わせている推薦入試と違って、入試期間を早めに設定でき、学生確保のめどがつきやすいからだ。
学力の低下懸念 もっとも、高校からは「大学の青田買い」との批判が強い。各大学の教員の間でも「英語を読めない、日本語のリポートを十分に書けない学生が増えている」と学力低下を指摘する声も根強い。 比治山大の金野副学長は「こちらも合格させた以上、卒業時には学士にふさわしい能力を身に付けさせる」という。 学生を取り込もうとする動きは、AO入試に限らない。福山市の福山大は昨年までの一年二カ月で、広島と岡山県内の高校や専門学校の計三十三校と教育交流の協定を結び、教員らの出張授業に拍車をかけている。大学のホームページは、各校との調印の様子を写真付きでも紹介している。 吉原龍介副学長(70)は「高校生らが大学の授業にも触れることは、進学への意欲を高め、地域の人材育成にもつながる」と強調。また「学生集めが厳しいからこそ、できれば交流先から多くの生徒に入学してほしい」と期待をのぞかせる。同大は一般入試を一月末から三月中旬まで行い、試験会場は全国二十二カ所を数える。 十八歳人口は、九二年度の二百五万人から下降線をたどり、〇七年度でみると37%減の百三十万人。国立社会保障・人口問題研究所は、今後十年間は百二十万人前後で推移するが、少子化が続けば今世紀半ばには八十万人まで落ち込むと予測している。 一方、政府の規制緩和による大学設置の簡素化や短大の四年制化が進み、私大は九二年と比べ百八十校増えた。国公立と合わせ、全国の大学は七百五十六校に上る。 「体質改善が鍵」 縮小する「需要」と「供給」の過剰から、社会人の受け入れに活路を見いだそうとする大学も現れる。 宇部市にある福祉系の宇部フロンティア大は、社会人がそれぞれの事情に応じて修業年限を超えて学べる「長期履修学生制度」を〇三年度から導入した。これまでに八十人が入学し、社会人が全学生の約15%を占めるまでになった。 昨年十月からは平日夜に公開講義を開始。年末には社会人を対象とした初のオープンキャンパスを開いた。松本治彦副学長(53)は「先細りする若年層だけをみていては大学は成り立たない。体質を変えなければ生き残れない」と断言する。サバイバルを図る各大学の試行錯誤が続く。(藤村潤平) (2008.1.12)
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