4.第二の家族 −近所に別のおばあちゃん
「預ける」「預かる」互助組織
低い認知度 浸透に課題
毎週木曜日の昼すぎ、豊岡翠ちゃん(2)は母親の芳子さん(35)に連れられて、岡山市の斎藤倫子さん(64)の家に行く。「よく来たね」と笑顔で迎える斎藤さんに、翠ちゃんは元気よく「斎藤ばあちゃん」。
斎藤さんと豊岡さんは、岡山市が国の交付金を活用して運営する「岡山ファミリー・サポート・センター」の会員だ。子どもを預けたい人と預かる人の互助組織。斎藤さんは豊岡さんが趣味の油絵に専念する三時間、翠ちゃんと過ごす。
サービスは一時間あたり七百円と有料だ。でも斎藤さんは翠ちゃんの大好物のイチゴを買ったりままごとセットを準備したり。「収入のためじゃないわねえ。孫と娘が増えたって感じ」と斎藤さん。一人娘(33)と三人の孫は広島市佐伯区で暮らしており、「遠くて手をかけられない。その分よそのお子さんの役に立てば」。出会って一年、翠ちゃんはすっかり懐いた。
「ばあちゃん(斎藤さん)のおかげで心がほぐれた」。豊岡さんは心底、感謝する。幼いころから実の母とわだかまりがあり、わが子との接し方にも悩んでいた。翠ちゃんの送り迎えのとき、斎藤さんと話すようになり、時には一時間が過ぎる。「気が付いたら、孤立感がなくなってました。血のつながりは関係ない。家族みたい」
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斎藤さんのような祖父母世代はファミリーサポートセンターの主力メンバーだ。岡山のセンターの今年四―六月の活動件数は九百十八件。保育園などへの送迎、放課後の預かりなど、五十歳代以上の二十八人が担ったのは四割近くを占める。子育てを終え、何か役に立ちたいと考える祖父母世代は、同様の互助組織、生協ひろしまの「くらしの助けあいの会」でも活躍している。
主婦玉置天子さん(35)=広島市安佐南区=は、夫と息子二人と四人暮らしの核家族。二人目を出産後、月に一、二回、助けあいの会の松陰芳枝さん(56)=同区=にサポートを依頼している。夕方二時間、松陰さんが玉置さん宅を訪れ、四歳と一歳の二人を風呂に入れる手伝いなどをする。
玉置さんは「私もゆっくりお風呂に入ったり、手の込んだ料理を作ったり。助かります」と話す。そして「松陰さんは三番目のおばあちゃんみたい。ただ親と違って、ほどよい緊張感を持って接するからうまくいくんでしょうか」。
助けあいの会の本部コーディネーターの平岡満子さんは「第三者には感謝の言葉がすっと出やすい。サービス利用で第三者に接して感情がぶつかりやすい親子関係を振り返るきっかけになる人もいる」と説明。「昔は向こう三軒両隣で支え合っていた。今は助け合いに仕掛けが必要」
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そんな互助組織の浸透はまだまだだ。国がファミリーサポートセンター事業を打ち出して十二年。今年三月末までに、中国五県の四十五市町がセンターを設置し、国から交付金を受けている。しかし、二〇〇三年の国の調査では、保育所を利用する約一万六千世帯のうちセンターを「知らない」と答えたのは六割を超えた。
また岡山のセンターでは、サービスを提供しようという会員は依頼する会員の半分以下にとどまり、需要に追いつかない。岡山市勤労福祉課の片岡保夫主事は「祖父母世代は比較的、時間の融通がきき、ニーズが集中する夕方のサービスになくてはならない存在。もっと多くの方に参加してほしい」と期待を寄せる。家族の枠を超えた新しい仕組みは、核家族と社会のつながりを深める効果もある。広く浸透させるための知恵が問われている。(平井敦子)
2006.8.12