「孫育てのとき」

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第5部 地域の力

2.多様な目 −「また産みたい」を下支え

看護師や元小学教諭らが「遊び場」


おおらかに親子と交流

 なぎさが長い光市の室積海岸。松林を背にした鉄筋三階建ての高齢者施設「東部憩いの家」に毎週木曜、乳幼児を抱いた母親たちが現れる。お目当ては二階の交流広間で開かれる遊び場「ふれあいサークル」。子育てを終えた中高年主婦の発案で二〇〇〇年四月に手弁当で始まった。

 畳三十五枚の広間には段ボール製の隠れ家あり、組み立て式ジャングルジムあり。七月中旬、真新しい鉄琴と木琴を見せ、運営ボランティア代表の天社サト子さん(71)が語りかける。「けんかをしながら、取り合いながら使ってください」

 親も先生も口にしそうにない言葉。「核家族ばかりで付き合いの幅も価値観も狭まりがちな時代。よそのおばちゃんだからこその考え方や接し方を伝えたい。子どもだけでなく、若い親にもね」と天社さん。

 買い集めた絵本や児童書約二百冊も「乳幼児にとって本は親しむもの。読むものじゃない。かじってもなめてもいい」と貸し出す。会は台風の日でも休まない。「親子で雨風をくぐって来るのも思い出だもんね」。元保育士の猪狩由紀子さん(57)がボランティア仲間とうなずき合う。

    ◇

 企業城下町の光市には社宅が目立ち、転勤族も多い。〇五年度末までの六年間に開いた計二百八十一回の会で参加者数は延べ一万人を超えた。面白いことに親子三人での参加者が〇三年度の五十六組から〇四年度は百七十一組と約三倍に増え、〇五年度も百八十五組と定着している。「最近、三人目を産もうとする人も増えてきた」と猪狩さんが言う。

 この日は二人、身重の主婦が子連れで来ていた。「二人目が生まれたら、ふれあいサークルでみてもらえる、がこの辺りの核家族ママたちの合言葉。産後一カ月で連れて来る人も多い」。三人目を妊娠中の瀬戸宏美さん(29)がスタッフの抱く長男涼楓(すかい)君(1)を見やる。

    ◇

 発足時から運営に加わるスタッフ桝野丈子(ながこ)さん(59)は自身も孫が一人いる。戦後、「ニューファミリー」ともてはやされた団塊の世代。「今どきの祖父母世代は活発で、運転免許を持っているおばあちゃんも多い。孫の守りじゃ満ち足りず、重荷に感じる人もいる」。家ではひざから離れない孫がサークルで友達と遊びだし、「やれやれです」と解放感に浸る祖母もいるという。

 スタッフは十六人いる。元小学教諭で人権擁護委員の天社さんをはじめ、看護師、保育士、高校教諭、民生委員、お寺や産婦人科医院の奥さんなどさまざま。多様な立場から子どもを見守ってきた経験がサークル運営の強みになった。

 年会費三百円だけ。親子はいつ来て、いつ帰ってもよい。本人から話し出さない限り、スタッフは家庭の事情を根掘り葉掘り聞かない。「それをやったら、しゅうとめと同じ。年齢だけで十分、しゅうとめ同然なんだから」。孫が六人いる元高校教諭の松本千里さん(66)が笑わせた。

 会の後、必ず反省会を持ち、参加者がぼそっと漏らした一言などを伝え合う。「お母さんたちは無意識に子どもの育ち具合を競争していてプレッシャーや孤立を感じている。実の親にも言えない思いを拾い、楽になれる場づくりを続けたい」。天社さんたちの視点は定まっている。(石丸賢)

2006.8.10