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たゆまず歩む 地域とともに 中国新聞

「再生 安心社会」

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第5部 明日のために

1.被害者救済

−更生の道 司法は示せ−

 「弁護側の主張には不可解な点が多く、待ってくれと思った」。五月二十四日、広島高裁であった光市母子殺害事件差し戻し審の初公判。閉廷後、妻と幼女の命を当時十八歳の少年に奪われた本村洋さん(31)は記者会見で「許されるなら、法廷で直接ただしたい」と訴えた。

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差し戻し審の初公判終了後、記者会見する本村さん(5月24日、広島市中区)

▽被告人らに質問

 約一週間後の六月一日、犯罪被害者や遺族が裁判で直接、被告人に質問できる改正刑訴法などの関連法案が衆院本会議で可決された。司法参加が実現すれば被害者らは傍聴席から法廷に入り、被告人や証人への質問などが可能となる。

 導入を強く訴えていた全国犯罪被害者の会代表幹事の岡村勲弁護士は「ようやく事件の当事者が加わり、法廷で真実を追求できるようになる」と高く評価する。

 これまで刑事裁判は、公共の利益優先で被害者救済の視点が抜け落ちていた。しかし、岡村さんや本村さんの切実な訴えが世の中を少しずつ動かした。

 事件当事者ながら裁判の情報を得られないなど十分な配慮を受けられなかった被害者の権利は、法廷での意見陳述や裁判記録の閲覧などを可能にした二〇〇〇年十一月の犯罪被害者保護法などで大きく前進。さらに、〇五年四月の犯罪被害者基本法の施行で急速に拡充され、今回の制度改革につながった。

 こうした流れを、常磐大大学院の諸沢英道教授(被害者学)は「被害者の権利拡充の背景には、国民の治安や犯罪への不安の増大が背景にある」と指摘する。

 犯罪白書によると、十年前まで四万人台で推移していた刑事施設への一日平均収容者数は七万人を超え、再犯者率も37・1%と悪化の一途をたどる。加えて凶悪事件の発生や未解決、少年事件の低年齢化…。ショッキングな事件に巻き込まれた被害者や遺族だけでなく国民も、司法が加害者を更生させる力を持ち合わせていないという疑念をぬぐいきれないからだとみる。

 一方で、八歳の二男を交通事故で亡くした「被害者と司法を考える会」の片山徒有代表(50)は導入に慎重だ。被告人と対抗できる被害者ばかりではない。「参加しなければ、処罰感情が過小評価されはしないか」と懸念する。

▽再犯への責任は

 政府は制度の来秋導入を目指しているが、被害者や遺族も一枚岩ではなく、さまざまな思いが交錯しているのも事実だ。

 だが、本村さんは言う。「被告の更生に触れるのなら再犯の可能性にも触れなくてはならない。国や刑を執行する機関は、被告が社会に出て再犯を犯したら責任を取れるのか」

 世間の感覚とずれた量刑基準や少年の再犯防止策、性犯罪者情報の開示のあり方など、「安全」に軸足を置いた刑事政策を国が具体的に示さなければ、司法への信頼回復はあり得ない。(片山学)

2007.6.14