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たゆまず歩む 地域とともに 中国新聞

「再生 安心社会」

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第2部 悲しみのふちから

下.道しるべ

−支援体制の構築急務−

 「献花台設置がかえって遺族の負担になりはしないか」。木下あいりちゃん事件から一年を迎えようとしていた十一月、遺体が段ボールに入れられ見つかった広島市安芸区矢野地区の住民からこんな声が上がった。

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広島被害者支援センターの電話相談室。年間200件以上の相談が寄せられる

▽住民らに戸惑い

 小一の女児がわいせつ行為を受け、殺された悲惨な事件。多くの住民が悲しみと憤りを共有する一方で抱く戸惑い。それが表れた出来事だった。

 「なんとか勇気づけたい。しかし負担に感じるとしたら申し訳ない」。地元町内会の栗栖活会長(64)は悩みを口にする。

 一方、あいりちゃんの父親建一さん(39)も「地域の皆さんが心を砕いてくれていることはよく分かる。ただどう接していいか…」。あまりに深い事件の傷跡が、遺族と住民、相互のためらいも生んでいる。

 事件以降、建一さんと妻の美和子さん(35)は広島県警被害者対策室の支援を受けた。自宅や警察署までの送迎や調書作成時の付き添い…。多い時には十人近くがサポートに携わったという。

 社団法人の広島被害者支援センター(広島市中区)も五月、二人の依頼を受けて公判を代理傍聴するなどした。建一さんは「警察にもセンターにも非常に手厚い支援をしてもらった。ありがたかった」と振り返る。

 しかし、こうした支援の事例はまだ数少ない。昨年一年間に対策室がカウンセラーを派遣したのは、県内で年間三万件を超す犯罪のうちわずか五十一件。建一さんをサポートしたカウンセラー伊藤可奈子さん(35)は「注目度が高い事件ばかりが目立つが、小さな事件の陰で苦しむ人は少なくない」と指摘する。

 専門教育を受けた約二千四百人のボランティアが被害者に寄り添うドイツ、住宅保険などの掛け金の一部を被害者支援に充てるフランス。これら先進国に比べ、日本の体制は数十年遅れているとの指摘もある。

▽社会に根付かず

 ノンフィクション「犯罪被害者の声が聞こえますか」の著者東大作さん(37)=カナダ在住=は「制度と被害者をつなぐ仕組みが必要」と言う。心身のケアに対する制度は整いつつあるが、被害者が積極的に利用できる受け皿は依然、社会に根付いていないとみる。

 広島のセンターの事務局は「センターの存在や支援内容を知ってもらいたい」と願う。しかし、プライバシーへの配慮から個別の支援内容は公表できず、被害者と地域住民を結ぶ「懸け橋」にはなりにくい面も抱える。

 被害者を事件当初から支えるため、センターは警察から直接情報提供を受けられる「早期支援団体」への移行を目指す。しかし、年間二千万円が見込まれるセンターの活動費は個人、企業からの会費や寄付が頼りだ。

 遺族・被害者の救済と地域による支援。双方の道しるべとなる機関が、安心社会の再生には欠かせない。(久保田剛)


犯罪被害者支援団体 広島被害者支援センターなどでつくる特定非営利活動法人(NPO法人)「全国被害者支援ネットワーク」の加盟団体は42団体。このうち、都道府県の公安委員会が指定し、警察が事件直後から被害者情報を提供できる早期支援団体は9団体。国は犯罪被害者等基本計画に基づき、これらの団体への財政的支援を検討している。

=第2部おわり

2006.12.26