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「再生 安心社会」

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第2部 悲しみのふちから

上.うねり

−沈黙破り厳罰化訴え−

 「家族の死を無駄にしたくない。その気持ちが生きる気力になった」。光市の母子殺害事件の遺族本村洋さん(30)は、被害者の権利確立を講演などで訴える。

 一九九九年四月、自宅に押し入った少年=当時(18)=に妻と生後十一カ月の長女を殺された。傍聴席への遺影の持ち込みや意見陳述の保障を訴え、法曹界を動かしてきた。「家族を守れなかった」。自責の念が強い意志を支える。

▽被害者置き去り

 廿日市市の自宅で一昨年十月、長女聡美さん=当時(17)=を刺殺された北口忠さん(49)は会社を辞め、防犯を目的とした特定非営利活動法人(NPO法人)に身を投じた。月数回講演し、非常時の避難路確認などを呼び掛ける。「誰にも家族を失ってほしくない」との思いが突き動かす。

 本村さんも北口さんも、事件直後から行動を起こしたわけではない。言葉を発し始めたのは、家族を突然失った悲しみのふちに沈んだ時期を経てからだ。

 二〇〇〇年一月設立の「全国犯罪被害者の会」の代表幹事、岡村勲弁護士は指摘する。「現行の刑事裁判は被告の人権にだけ光が当たり、被害者の思いは置き去り」。さらに「罰を科すのは国の秩序を乱したからであって、被害者のためではなかった」と言い切る。

 加害者から補償を受けられず病院から治療費の取り立てを受けた女性、息子を殺されても少年事件のため殺害理由さえ知らされない母親…。

▽「不条理」を共有

 「不条理」は報道を通じて共有され、厳罰化や法制度改革を求める活動につながった。本村さんら五人で立ち上げた被害者の会の会員は三百人を超える。

 昨年十一月起きた広島市安芸区の木下あいりちゃん事件の遺族木下建一さん(39)。事件から約半年後、被告の極刑を求めて性的被害の具体的報道をマスコミに求めた。あいりちゃんの写真も提供した。本村さんらの行動にも触発され、事件防止に向け「自分ができることはないか」と悩んだ末だった。

 だが今も、多くの被害者や遺族は公の場に出ることをためらう。加害者による報復の恐れ、いわれのない偏見…。民事裁判を起こしたある遺族は「子の命と引き換えに金を取るのか」と非難されたという。そんな現状を踏まえ、〇四年末には犯罪被害者基本法が成立。一年後には心身の回復策充実など二百五十八項目を盛り込んだ基本計画も策定された。

 岡村弁護士は「誰もが声を上げられるわけではない。基本計画が声なき声も包み込む社会の実現につながれば」と願う。(久保田剛)


犯罪被害者等基本計画 2004年12月に犯罪被害者等基本法が成立したのを受け、政府が昨年12月に決定した。被害者による損害賠償請求を容易にする新制度の検討などの支援策を盛り込んでいる。犯罪被害者白書はこのうち9割は実施したとする一方、「社会で孤立を余儀なくされ、犯罪などの直接被害にとどまらず副次的な被害に苦しめられることも少なくない」としている。

2006.12.24