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たゆまず歩む 地域とともに 中国新聞

「再生 安心社会」

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第1部 模索

1.見守りの行方

−息長い活動 知恵絞る−

 一年生のあいりちゃんが通った矢野西小。事件から一年の二十二日も、保護者が付き添っての集団登下校が続いていた。登校時は全児童に保護者が付き添い、二十カ所ある集合場所に送る。そこからは数人の当番が担当するリレー式だ。

 この二学期から、新たな光景が加わった。六年生らが「班長」の夜光たすきを掛け、当番の保護者と一緒に下級生の面倒を見る。保護者の負担軽減が狙いだ。さらに十二月からは、学校に近い区間で保護者付き添いをなくす。「理想は児童だけの登下校」とPTA会長の川田秀司さん(39)。ただ、保護者の目を完全になくすためらいもある。

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当番の保護者に付き添われ集団下校する矢野西小の児童(22日午後4時、広島市安芸区矢野西)

 あいりちゃんは一人で通学路を下校中、凶行に遭った。父の建一さん(39)は通学路の危険を感じていた。両親は、習い事がある月木金曜は迎えに行っていた。「あの日もそうしておけば…」。その後悔を地域も受けとめ、見守りは続く。

▽週3回以上当番

 現場近くでは事件前、女子中学生が男に連れ去られそうになり、住民の目撃で難を逃れたケースもあった。だが、毎日の付き添いに加え、多い人で登下校を合わせ週三回以上、当番を務める人も。回数が多い主婦、時間の制約の大きい共働き世帯からは「子どもは守りたい。でもいつまで」との声も漏れる。

 四、五月に連続児童殺害事件が起きた秋田県。助成金を積み、自主防犯組織を事件前の三倍に増やした。しかし殺人容疑で逮捕されたのは、被害女児の母親。見守り活動を強化した保護者からは、「意味があるのか」といった声もある。

 県は来年一月、自主防犯組織が活動の悩みを話し合う連絡会議を設ける。「見守りをやめるわけにはいかない。地域の問題を共有し、解決策を導きたい」と県民文化政策課。脅かされる安心社会と、保護者・地域の負担。二つの現実の間で行政も手探りを続ける。

 二〇〇一年六月、大阪教育大付属池田小の児童殺傷事件を経験した大阪府池田市では午前九時から午後五時、青色回転灯をつけた市公用車によるパトロールが毎日続く。

▽官民の協力整う

 帰宅後も、遊びに出たり習い事に通ったりする子どもが多い。そのためこの七月からは、民間ボランティアが週二回は公用車のハンドルを握る。事件から五年。官民の協力体制が整いつつある。

 登下校に合わせて買い物や散歩に出る。人通りの少ない路地に立つ…。あいりちゃん事件を機に設立された安芸区の矢野町子どもの安全を守る会(三十四団体)は、日常生活の延長で活動を続ける。宇都宮幸枝会長(78)は言う。「無理をしては行き詰まる。十年先を見据えないと」

 地域ぐるみで子どもを守る―。その機運までも息切れさせないため、さらに知恵を絞るべき時期が来ている。(久保田剛、野田華奈子)

2006.11.23