「なんのカギ?」   その1 お母さんとの約束

 とってもさむい日(ひ)でした。 イラスト

 えりなは家(いえ)の外(そと)に出(で)ると、玄関(げんかん)のドアにカギをかけました。カギあなにカギをつっこんでまわすと、かちゃりと、カギのかかった音(おと)がしました。自分(じぶん)で家のドアにカギをかけるのははじめてです。なんだかちょっときんちょうします。

 さっき、お母(かあ)さんは買(か)い物(もの)に出かけていきました。えりなはお母さんに、「お外に行くときには、ちゃんと玄関のドアにカギをかけてね。それから、カギはなくさないようにポケットに入(い)れておくのよ」といわれたのでした。

 えりなはいわれたとおり、青(あお)いリボンのついたカギをスカートのポケットに入れました。えりなは、まりちゃんといっしょに遊(あそ)ぶやくそくをしているのです。

 家の前(まえ)の坂道(さかみち)をくだり、くだもの屋(や)さんの角(かど)をまがり、パン屋さんの前の横断歩道(おうだんほどう)をわたります。冷(つめ)たい風(かぜ)がぴゅうっと吹(ふ)きぬけました。雪(ゆき)もちらほらふりはじめました。

 マンションの二階(かい)の二〇二号室(ごうしつ)がまりちゃんのおうちです。

 ピンポン。チャイムをならしました。でも、返事(へんじ)がありません。

 ピンポン。もういちどチャイムをならしました。やっぱり返事はありません。

 「まりちゃん。あ、そ、ぼ」

 えりなは、ドアに口(くち)を近づけて、そう呼(よ)びかけました。でもやっぱり返事はありません。おるすなのです。まりちゃんは、どこかに出かけてしまったようです。

 がっかりでした。

 えりなはのろのろと来(き)た道をひきかえしました。

 家に帰(かえ)ると、ドアにはカギがかかっています。おかあさんはまだ帰っていないようです。えりなは手(て)をポケットに入れました。

 ポケットはからっぽでした。なにもありません。入れたはずの家のカギがないのです。

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