教育と福祉 連携が鍵 「女子児童に対して痴漢。声をかけ、スカートをめくる」。午後四時すぎ、仕事中だった周南市内の女性(41)の携帯電話に、周南署から速報メールが入った。二人の娘が通う小学校区で、三十分前に起きた事件だった。 「心配事が多く、とても子育てをしにくい」との思いが募る。度重なる不審者に、教諭の引率や集団下校となるが、数日で解除。延長保育は午後七時―七時半までだが、児童クラブは午後五時半までに迎えに来るよう求められる。フルタイム勤務には厳しい。 地域の見守り活動が活発になる半面、参加できない共働き家庭への風当たりは強くなる。やりがいも愛着もある仕事。「継続的な対応策や解決策はないのでしょうか」 会社員の夫(46)と娘との四人暮らし。夏休みになると、悩みはさらに深まる。低学年の二女はクラブに通えるが、高学年の長女は対象外。「長期休業中だけでも高学年を預かってもらえないだろうか」と訴える。
■定員40人に91人 児童クラブは市内に二十四施設ある。四月一日現在、定員に対する利用率は平均112%。うち四施設は200%前後だ。最も過密な徳山小校区は228%。定員四十人に九十一人が登録する。 徳山小は、周辺にマンションの建設が相次ぎ、児童数は六百四十六人と二年間で五十人増えた。児童クラブは南校舎一階と北校舎三階の二教室を使うが、学校も使いたい教室だ。敷地は手狭でプレハブを建設できない。 児童らは、体の厚み分だけ空けて何台も並べた座卓で宿題をし、おやつの後は、くっつき合って本を読む。蒸し暑く、汗がしたたり落ちる。 定員五十人に八十九人が登録する遠石小校区児童クラブは、グラウンドそばのプレハブが拠点。狭いため、熱が出ても寝かせる場所はない。座卓三台を並べたその下に児童が滑り込む。周囲は他の児童が宿題をする。 都市部ほど「場所」を確保できず、対象を拡充できない、というのが市の見解だ。教育と福祉のはざまで、児童クラブが取り残されている。 女児の母親は「小学校区ごとに、いつも誰かがいる子どもの居場所がほしい」と考えている。 ■安心感生む体制 同様の構想を、桜木地域通貨研究会顧問の岩根充さん(72)も描く。地元の育児サークルおたまじゃくしをサポートしてきた。「空き家をオープンハウスにし、乳幼児の親子や児童、若者、お年寄りが誰でも憩え、寄り添える場をつくれないか」 週に一度開くおたまじゃくしも、悩みは場所の確保だ。リーダーの磯崎知子さん(43)は「場所さえあればもっと開ける。サポーターが常時いるという安心感は大きい。地域の人材ももっと生かせるはずだ」とみる。 熊谷一郎健康福祉部長(58)は「子どもの安全を守るために何が一番必要なのか。今の体制のままでは対応できない。教育と福祉が連携し、歩み寄る必要がある」と受け止める。 学校教育課、青少年教育担当、図書館、児童家庭課、母子保健担当、元気こども課。子どもの成長にかかわる部署は複数にまたがる。しかし、誰が、現場で流す汗や涙を共有し、声を徹底的に拾い集めるのか。垣根を越え、具体的な改善策を打ち出すのか。求める思いは切実だ。(土井あゆみ)
(2006.7.21) |