中国新聞


【社説】体罰調査 愛のむち、もう許されぬ



 文部科学省のまとめた全国調査で、体罰をしたと認定された教員が2012年度、6721人と大幅に増えた。11年度の調査では404人だった。

 文部科学省のまとめた全国調査で、体罰をしたと認定された教員が2012年度、6721人と大幅に増えた。11年度の調査では404人だった。

 これまでの調査は公立校だけに限り、体罰を理由に処分された教員のみを数えていた。大阪市立桜宮高の生徒が部活動の顧問から体罰を受け、自殺した問題を踏まえ、調査のあり方が見直された。

 都道府県教委を通じ、児童生徒や保護者からも調査するように要請。私立校を対象に加えたことも数字を押し上げた。文科省は「以前なら許されると考えていたケースも報告された」と分析している。

 実態把握にかなり近づいたといえるのではないか。根深い教育の問題に正面から向き合う契機としてもらいたい。

 ただ、公立校の体罰教員が最多の長崎で452人、最少は福井の14人と都道府県によって、ばらつきが大きい。中国地方に目を転じれば、岡山が最多で153人。山口56人、広島43人と続く。無記名アンケートなどを活用し、掘り起こしに努めた県ほど深刻な数字となった傾向がうかがえる。

 件数が比較的少なかったと安心するのではなく、さらなる事案の把握が課題と受け止めるべきだろう。研修で体罰の認識をそろえるとともに、引き続き調査を重ね、実態に迫る手法をさらに磨く必要がある。

 体罰は学校教育法で禁止されているものの、どんな行為が該当するかは必ずしもはっきりしていない。

 全国調査によると、9校に1校の割合で体罰があったことになる。とりわけ中学、高校で部活動中の体罰が目立つ。

 日本高校野球連盟の調査では、硬式野球部の指導者の約1割が「教育上、必要」と答えたという。スポーツ指導における体罰肯定の根強さが浮き彫りとなった格好である。

 勝利至上主義は、結果さえ出せば体罰も許されるという土壌を生みやすい。「体罰に頼るのは言葉による指導力不足の裏返し」との認識こそ、むしろ徹底すべきではないか。

 桜宮高問題の外部監察チームは、体罰がなくならないのは生徒や保護者が異を唱えず、水面下で処理されてきたからだと強く指摘する。子どもや保護者、学校側が体罰を容認し、助長さえしているという現実を肝に銘じておきたい。

 文科省の有識者会議はこの春、運動部活動の指針をまとめ、炎天下でのランニングといった、指導として認められない行為の具体例を示している。

 広島県教委も独自の手引を作成した。部活動に限らず、教室でも体罰に頼らない指導へとつなげてもらいたい。

 子どもの体や心に傷を残しかねない体罰は、実社会では暴行罪や傷害罪にも問われ得る人権侵害にほかならない。決して「愛のむち」などではなく、到底許されない。

 そのことを胸に刻んでこそ、「指導の範囲内」かどうかを教員が臨機応変に自ら判断できるはずである。

 体罰の早期発見と防止には、子どもや保護者が異を唱えやすい環境づくりが欠かせない。根絶に向け、社会全体の意識を変えていけるかどうか。大人の側の本気が試されている。

(2013.8.18)





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