親の立場からすれば気が気ではないだろう。全国の公立小中学校の体育館や校舎の耐震化率が今年4月現在で84・8%にとどまっていることが、文部科学省による調査で分かった。 東日本大震災で必要性が強く叫ばれたにもかかわらず、1年で4・5ポイントしか増えなかった。 しかも中国5県の状況は目を覆いたくなる。広島は62・5%と全国ワースト。山口も69・0%、岡山は73・2%、鳥取が76・3%、島根78・8%と、軒並み平均を大きく下回っている。 2015年度中に全国で完了する。それが国の目標だ。学校は地域住民の避難先ともなる。待ったなしの課題として各自治体は対応を急ぐべきだ。 それにしても中国地方はなぜここまで低いのだろう。 広島県の場合でみると、広島市、福山市、呉市の三大都市で思うように前に進んでいないことが足を引っ張っていよう。最も子どもの数が多い広島市も62・7%である。 高度成長期の古い校舎が多い福山市は42・7%にとどまり、個別の計画作りも遅れているという。3年後の耐震化完了を危ぶむ声もある。 各自治体には、これまで財政難を言い訳にする空気があった。災害への危機感が乏しかったと言わざるを得ない。 阪神大震災以降、各地で大規模地震が多発し、今や「災害列島」と言われていることを、どう考えているのだろう。 現に近い将来に起きる恐れのある南海トラフ巨大地震をめぐっては、揺れや津波の高さが従来を大きく上回るとの想定が3月に示されたばかりだ。もはや悠長に構えている暇はない。 財源については、国の方で既に手当てされている。 東日本大震災を踏まえ、15年度までは耐震化費用に対する補助率がかさ上げされた。地方交付税も加えると自治体の負担は最大でも1割程度になるという。その分の出費は、たとえほかの公共工事を遅らせてでも賄うべきだろう。 気になるのは、耐震化率を上げることだけを目的化する風潮が感じられることだ。 建物の強度が高まることで、子どもたちの命を守れるのはもちろんのことだ。しかし、それだけで十分だろうか。 津波に襲われるケースもある。いざというときにどう行動するのか。地域の実情に沿った避難計画と、日ごろからの防災教育は当然欠かせない。 さらには地域住民にとって命を守る最後の「とりで」ともなることを忘れてはなるまい。 東日本大震災では多くの被災者が近くの学校に駆け込み、教室や体育館は救護活動の拠点に使われたほか、避難所として生活の場にもなった。同時に水や食べ物、薬などの不足も深刻化したという。 そうした点の反省からだろう。文科省は今年5月、学校を防災拠点として強化するための新たな方針を各自治体に伝えている。貯水槽、備蓄倉庫、トイレ、自家発電装置などを備えていく、というものだ。 広島県教委によると小中学校の9割が避難場所に指定されている。住民からすれば、耐震化工事と併せて防災拠点の機能を高めてほしいところだ。並行して進められないか、検討を急いでもらいたい。 (2012.8.20)
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