ねじれ国会の下、対立の火種となってきたのが民主党の看板政策、子ども手当の扱いだ。それに代わる現金給付の仕組みがようやくまとまった。 民主、自民、公明の3党で合意した新しい「児童手当」である。必要な法改正案の審議が、衆院で先週スタートした。月内に成立する見通しという。 手を打たないと、4月からは政権交代前の児童手当の制度に戻り、自治体に混乱をもたらす恐れがあった。与野党の歩み寄りで、それが避けられたこと自体は一定の評価ができよう。 ただ、もともとの「社会全体で子育てする」という理念が薄らいだ感は否めない。 中学生以下に支給される新手当の額は、年齢や子どもの数により1万〜1万5千円。その点では現状と変わらないが、一定の所得制限を設けたのが特徴といえる。子ども2人の世帯の場合、夫婦いずれかの年収が960万円以上ならば、1人当たり月額5千円になる。 子ども手当を「ばらまき」と批判し、所得制限のあった旧児童手当にできるだけ戻す。それが自民、公明の主張だった。 一方、民主の側は子ども手当の名前と全世帯給付にこだわりたい。妥協の結果、とりあえずこの方法に落ち着いた。名称は最後までもつれ、自公の言い分通り「児童手当」となった。 政府は子ども手当の支給は時限立法や「つなぎ法案」でしのいできたが、やっと恒久法となる。とはいえ矛盾をはらんでいると言わざるを得ない。 まずは多くの世帯で政権交代前より負担増となる点である。子ども手当導入とともに年少扶養控除が廃止されていて、新手当の額と比べると税負担のほうが大きくなるという。 これでは何のための支給かと感じる人も多かろう。自民、公明が控除の復活を求めたのも、ある意味で正論だ。 与野党協議では「5千円」の世帯の支給は暫定的に続け、扶養控除の扱いはその間に検討するとした。中途半端な状況は放置すべきではない。なるべく早く結論を出してもらいたい。 もう一つは、手当支給の理念があいまいになったように思えることだ。審議中の法案には「保護者が子育てについての第一義的な責任を有する」という一文が入っている。 一方で民主の前原誠司政調会長が「理念は継承する」と早々に強調した。「社会全体」との整合性はどうなのだろう。 ここは手当支給の意味についての十分な検証が欠かせまい。 全国の保育所の待機児童数は2万5千人を超える。子どもを産み、育てる環境づくりはハード、ソフトでさまざまな施策が求められる。財政難の中、現金給付がどこまで優先されるべきものかどうかも問われる。 「児童手当」を着地点とせず、今こそ子育て支援の全体像を練り直す時だろう。 焦点の社会保障と税の一体改革大綱は、確かに手厚い子育て支援を打ち出す。だがもう一つの看板となる幼保一体化にしても、幼稚園存続も認めるなど、当初の構想から後退した。これで待機児童の解消が実現できるかは未知数といえる。 子育て世代の人たちの切実な声に耳を傾け、政局ではなく政策に反映させていく。それが与野党の双方に求められよう。 (2012.3.18)
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