少子化の波 在り方探る市 指定管理制導入も視野
都会の小中学生が親元を離れ、共同生活しながら通学する岩国市本郷町の市本郷山村留学センターが、開設から25年目に入った。市が2006年の市町村合併後、旧本郷村から運営を継承。指定管理制の導入も視野に入れて、在り方の検討を続けている。過疎地の教育施設の将来をどう描くのか。模索が続く。(佐々木裕介) 「ここでの教育は、これからの日本の教育を問い直す原点だと思っている」。市の佐倉弘之甫教育長は、4月にあった本年度の入所式で強調した。25期生は9都府県から集まった小3〜中3の17人。羅漢山の麓の豊かな自然の中で午前6時半に起床し、朝と夕の食事を一緒にする規則的な生活を送る。本郷小と本郷中に通い、平日は泊まり込みの本郷小教員に勉強を見てもらう。休日は田植えや芋掘りなどに汗を流す。 センターは1987年4月、旧本郷村が、地元小学校の児童数の確保と地域の活性化を目的に開設。02年度以降は、小学生の時に留学経験がある中学生も受け入れている。各年度で修了し、昨年度までで修了者は延べ460人に上る。 開設時からスタッフとして子どもを指導する佐古三代治所長(53)は「新しく入った子は目に見えて体が引き締まる。基本的な生活習慣が身に付き、しかられたり、ほめられたりする中で心もたくましくなる」と実感する。不登校だった子も、必ず学校に通うようになるという。 ▽不安定な雇用 ただ、スタッフの雇用は不安定だ。全7人のうち市の正規職員は佐古所長だけ。次長1人と指導員2人は6カ月で契約更新が必要となる臨時職員。調理員3人はパートだ。市教委も「雇用の安定は合併時からの検討課題」とする。 09年度の決算ベースで、センターの管理運営経費は年約1620万円。保護者が市に払う委託費(小学生月4万5千円、中学生月5万円)が中心となる歳入は年約870万円にとどまる。赤字分約750万円は市の一般財源を充てている。 市教委は、全員の正規雇用について「人件費の問題もあり、難しい。異動対象にもなる」と強調。地元住民団体などによる指定管理を含めた運営見直しの検討について「指定管理者がスタッフを直接雇用すれば、継続的な指導ができるメリットがある」と説明する。しかし、懸念する声もある。 ▽「将来へ投資」 合併時に本郷村教育長だった原田角男さん(71)=岩国市南岩国町=は「保護者がセンターに子どもを預けるのは市直営への信頼感が大きい。市の持ち出し分は、人を育てる将来への投資と考えることもできる」と指摘。市直営が変更された場合の委託費の値上げや、経営難による閉所の可能性を心配する。 佐古所長は「1期生は小学生の子どもがいてもおかしくない年齢になった。親子2代で受け入れるのが夢」と言う。開設前年の86年度、旧村には小学生が96人、中学生は63人いた。当時3校あった小学校は今春、ついに本郷小だけになり、本年度の児童は38人。本郷中の生徒も32人に減った。 合併後の地域づくりにも関わるセンターの今後を、市がどう方向付けるのか。少子化が加速し、留学生が存在感を増す山里で、住民は見守っている。 (2011.5.7)
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