【社説】東日本大震災で両親を亡くした子どもが大勢いる。引き取りたいという申し出が全国から相次いでいるそうだ。 震災に限らず、家庭的に恵まれない子どもを親に代わって育てるボランティアが里親だ。「こどもの日」に寄せて考えてみたい。 震災孤児に関する問い合わせは広島県にも来ている。里親研修の申し込みは既に昨年の2倍の30人に達した。県は研修を前倒しして対応するという。 とはいえ震災孤児は100人余りで、大半は親族と暮らせる見込みだ。被災県も遠隔地への里親委託には消極的である。 安心して暮らせる家庭を必要とする子どもは被災地だけでなく日本中に大勢いる。ところが里親は足りていない。この関心の高まりを追い風にできないだろうか。 離別や虐待などさまざまな事情で家庭を離れざるを得ず、養護を受ける子どもは全国に約3万7千人いる。 行き先として国は里親を優先する原則を掲げる。集団で暮らす児童養護施設よりも、家庭の方が人格形成に必要な安心感や自己肯定感などを育みやすいからだ。 とはいえ現実は、施設への入所がほとんどだ。しかも虐待の増加などで入所児童はこの10年で1割増えた。里親などの家庭で暮らす割合は全国平均で10%。広島県では7%にすぎない。 厚生労働省は2014年度までに16%に引き上げることを目標にしている。それでも米国の約80%、ドイツの約30%に比べるとまだ低い。文化や制度の違いがあるにしても立ち遅れている。 里親の登録数は全国で約7千人、県内では130人余り。高齢化が進んでいる上、地域の偏りなどもあり、実際に養育している子どもの数は半数程度にとどまる。 ニーズを満たすにはまず裾野を広げる必要がある。 国は09年に制度を改正。通常の里親のほか、親族がなる場合、養子を前提にした場合などに分類した。親権の移動を伴う養子縁組の増加を見込んでのことだろう。 同時に里親手当を大幅に増やした。現在、小学生を1人育てる場合は生活費を含め月12万円余りが支給されている。経済的理由で志願をためらうケースを減らす配慮は当然だろう。 里親へ子どもを委託するかどうかは児童相談所が個別に判断している。ただ、気になるのは委託した後に支える態勢が必ずしも十分でないことだ。 里親が困った時にいつでも相談できる仕組みや、訪問による支援、地域の理解を深める活動などを担うチームが要るだろう。 民間の力を生かすのも一つの方法だ。制度改正でNPO法人も里親支援機関として活動できるようになった。 震災によって潜在的な希望者がいることが分かったが、まだ多くの人に知られているとは言い難い制度である。子どもに家庭のぬくもりを届けるには、社会の関心を高めることが鍵を握る。 (2011.5.5)
|