中国新聞


ワクチン接種の中断 
欠かせない冷静な対応


 【社説】乳幼児の細菌性髄膜炎などを予防する小児用肺炎球菌ワクチンやインフルエンザ菌b型(ヒブ)ワクチン。接種した4人が相次いで亡くなった。

 いずれも世界100カ国以上で使われている。国内でも多くの自治体が接種の無料化に踏み切ったばかりだけに衝撃は大きい。

 厚生労働省はおととい、これらの接種を一時的に見合わせる措置を決めた。接種と死亡の関連が明らかでない以上、ここでいったん立ち止まるのは当然といえる。

 週明けにも専門家による調査会を開き、因果関係の評価を進めるという。科学的な根拠に基づく判断とともに、十分な情報の開示が求められる。

 4人は川崎、兵庫県の宝塚、西宮、京都市の生後3カ月〜2歳。全員が肺炎球菌ワクチンを接種。同時にヒブワクチンと混合ワクチン(ジフテリア、百日ぜき、破傷風)を接種したのは2人で、残る2人はヒブか混合のいずれかを受けていた。接種翌日から3日後までに亡くなった。

 接種との関連について担当医は「評価不能」2人、「不明」2人と厚労省に報告しているようだ。

 一番の気掛かりは今回の死亡がワクチンの副作用によるものかどうかだろう。

 厚労省によると、昨年10月までに肺炎球菌ワクチンの接種を受けた推定70万人のうち副作用が報告されたのは42人。ヒブワクチンを受けた140万人中では44人だった。頻度は他のワクチンに比べて高くないものの、けいれんなど重い副作用も少数ながらあった。

 先月末にあった厚労省の調査会では共に「安全性に重大な懸念はない」とされたものの、今回のケースについて詳細な検討が急がれる。その際、明らかにしてほしい幾つかの疑問点がある。

 まず、製造段階で何らかの問題がなかったのかという点。肺炎球菌ワクチンは全員が同じメーカーで、2人はロット番号も同じだった。ヒブワクチンを受けた3人も同じメーカーだった。

 さらには複数のワクチンを一度に打つ同時接種との関係を気にする向きもあろう。海外では広く普及している方法で、副作用が強まる恐れはないとされてはいる。

 亡くなった子のうち2人に持病もあったという。死亡との関連について精査が必要だろう。

 親の不安に応えると同時に、動き始めたワクチン接種の態勢を後退させないためにも、しっかりした検証作業が不可欠だ。

 日本では1990年代、新三種混合(MMR)ワクチンの副作用の多発によって接種が中止された経緯がある。健康被害に対する訴訟も相次いだ。その後のワクチン行政が欧米に比べて大きく後れを取ったことは否めない。

 年間千人の子どもが細菌性髄膜炎を発症し、死亡率は2〜5%とされる。重い後遺症となるケースもある。副作用のリスクがゼロというワクチンはない。いたずらに動揺せず、正しい情報に基づいた冷静な対応を心掛けたい。

(2011.3.6)


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