中国新聞


入試投稿で逮捕
ネットの弊害どう防ぐ


 【社説】京都大などの入試問題がインターネットに投稿された問題で、仙台市の男子予備校生が偽計業務妨害の疑いで逮捕された。

 公正であるべき入試の根幹を揺るがした事件には依然、動機や手口に不可解な点がいくつもある。再発防止策を講じるためにも全容解明が急がれよう。

 予備校生は「自分一人で投稿した」「申し訳ない」などと供述しているようだ。

 動機が何であれ、前代未聞のカンニングが厳しく断罪されるのはやむを得まい。こつこつ勉強してきた正直な受験生が不利益をこうむる事態は認められない。

 それにしても「なぜ」と問いたくなる。

 警察はIPアドレスと呼ばれるネット上の住所から投稿者の携帯電話を割り出し、比較的短時間で予備校生を特定した。

 予備校生は普段から同じ投稿サイトをよく利用し、病院や薬の効き目を問い合わせるなどしていたようだ。その延長にすぎないと軽くみた行為だろうか。稚拙と言うほかない。

 とはいえ監督の目をかいくぐって試験会場でネットを閲覧したとすれば、大胆さに仰天する。同時に、投稿からわずかな時間で次々と回答が寄せられたスピードにも驚かされる。

 替え玉受験など古典的なやり方とは全く次元が異なるものだ。しかも善意で回答した人は不正を知るよしもない。ネット時代ならではの手口といえる。

 各大学は急きょ、携帯電話の持ち込み禁止や、電源を切って机の上に置かせる対策を講じている。だが情報機器や技術は日々進歩している。対策もいたちごっことなりかねない。

 ネットは情報収集ツールとして使い勝手がよい。中東で広がる大衆の民主化運動も、デモや集会の計画などネット上での情報交換がなければ実現しなかった。

 半面、便利さと引き換えに、偽の情報を信じ込まされたり、詐欺などに遭ったりする被害も後を絶たない。今や個人情報や国家機密さえも、たやすく漏えいしてしまう時代だ。

 だからといってネットに流れる情報をむやみに規制するべきではなかろう。チェックに要する膨大な人とコストを考えるなら非現実的でもある。

 外的な規制よりも、不正につながる利用をしない自己規範こそが求められるのではないか。

 匿名のネット社会では、他人の中傷など「モラルの欠如」が叫ばれてきた。情報を発信する側、利用する側の双方で、モラルを取り戻す地道な努力を続けていくしかあるまい。

 他人の文章をネットから無断で複写し、あたかも自分が書いたように欺く風潮も広がる。自分の頭で考えて言葉にする力をどう養っていくか。

 高度情報化のひずみが生んだ事件との見方も成り立つ。社会全体でさまざまな視野から取り組むべき課題であろう。

(2011.3.4)


子育てのページTOPへ