低下に歯止めというが 【社説】経済協力開発機構(OECD)が昨年、65カ国・地域の15歳を対象に行った学習到達度調査(PISA)。2000年に調査がスタートして以来ずっと下がり続けていた日本の順位が、ようやく上向いた。 文章やグラフを読み取る読解力は、前回(06年)の15位から8位になった。数学的応用力は9位、科学的応用力は5位と、それぞれ前回より一つ順位を上げた。 文部科学省は「改善傾向を示している」と胸をなでおろしているようだ。果たして日本の子どもの学力低下に歯止めがかかったと見ていいのだろうか。 PISAは、学んだ知識を実生活に生かす力を見るのが目的。単純な計算や暗記問題は出ないので「詰め込み教育」だけでは歯が立たないとされている。 読解力は全ての学力の基礎ともいえる。03年に順位が大きく落ち込んだのを受け、文科省は低迷から脱する取り組みを進めてきた。始業前に本を読ませる「朝読書」や、自分の考えを書かせる機会を増やす―などだ。 さらに07年から毎年実施している全国学力テストでは、読解力を試す記述式問題を出している。これらの対策が実を結んだ、との見立てのようだ。 今回の調査では、新聞をよく読む生徒は読解力も高い傾向がはっきり表れている。学力向上の観点から新聞を見直し、上手に授業などに取り入れていく方法なども考えてみてはどうか。 気掛かりな課題も浮かび上がっている。 一つは、これまでの調査で日本の弱点とされてきた子どもの間の学力格差が依然解消されていないことである。 読解力の得点がかなり低い子どもは、今回も5%近くに上った。トップ10の国・地域の中では最も高い。授業についていけない問題が影を落としている。 家庭の経済力の差が学力差に結びついているとの見方もある。それが事実とすれば、手をこまねいていてはなるまい。 自由記述式問題への無回答が目立ち、文章に書かれた情報を自分の知識や経験と結びつけて判断する「熟考・評価」分野も苦手な傾向がうかがえる。「学習のための学習」になっていないだろうか。 一方、数学で良い成績を挙げる子どもが少ない点も気になる。進んだ興味や関心を持つ生徒が力をさらに伸ばしていけるような工夫も求められる。 知識が十分活用できるような力を高めるためにも、基礎・基本の徹底はおろそかにできない。基礎知識を重視する別の国際調査(07年)では上位を維持している。総合的な学力を身に付けるためには両輪をバランスよく進めていくことが鍵となるはずだ。 来春から新学習指導要領が本格実施されると、主な教科の授業時間数が1割ほど増える。知識の詰め込みに充てるのでなく、子どもの意欲や興味を引き出す知恵こそが必要だろう。 (2010.12.9)
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