広島市、派遣要請が急増 制度変更負担重く 広島県内2市廃止、復活望む声
「食事が十分でないみたい」「母親は病気を抱えている」。広島市のSSW4人と市教委生徒指導課の横山善規指導主事(46)が話し込んでいた。週1回のケース会議。この日は活動の成果や積み残した課題などを整理したため6時間かかった。 SSWは不登校や児童虐待などの問題について学校と家庭、福祉機関をつなぎ改善を図るコーディネーター役を担う。市は2008年7月、国の事業を活用し、社会福祉士や精神保健福祉士の資格があるSSW3人を採用。小中高校の要請がある都度派遣してきた。 初年度は7月からの9カ月で57件に対応。毎月約70万円の全費用を国が負担した。しかし09年度に国が事業を地方に移管。費用の3分の1しか補助しなくなった。市は配置を続け、1年で77件を手掛けた。 ▽ニーズが表面化 1人増員した今年は、前年からの継続事案を含め7月末で既に74件に対応している。横山指導主事は急増について「SSWの果たす役割が周知され、潜在的ニーズが表面化した」と分析する。 学校からの要請のほとんどは、子どもの家庭問題が絡む。本年度の74件のうち60件は、背後に経済的な問題がある。親に疾病がある事案も42件。SSWは原因を見極めると、関連機関と連携し、環境の改善を働き掛ける。 不安定になっていたある児童の親は経済的に行き詰まり、うつ病になっていた。SSWは、市生活課で生活保護の申請を支援。医療機関も仲介した。 別の児童の親は養育力が乏しく、家はごみだらけ。食事も作っていなかった。SSWは1年以上かけて親と信頼関係を築き、ごみの廃棄を了承させ、ヘルパー利用も促した。 SSWの陶山博子さん(58)は「親には困っているとの実感がなく、会うのを拒まれることも多い」と実情を明かす。「粘り強く糸口を探すほかない」 全国的にもSSWのニーズは高い。文部科学省が配置事業を打ち出した08年度、46都道府県が944人を採用した。広島県も広島、呉、安芸高田、尾道、福山の5市に各3人を配置した。 しかし文科省の制度変更で、全国のSSWは09年度552人と約4割減った。広島県も継続を見送ることに。「08年度の成果を受けて財政当局に予算要求したが、認められなかった」と県教委指導3課は説明する。この結果、政令市の広島を除く4市は費用を全額負担するほかなくなり、08年度にそれぞれ23人、103人に対応した福山、呉の両市は継続を断念した。 ▽独自予算で対応 一方、尾道や安芸高田市は独自予算で同様の事業を継続している。県社会福祉士会子ども家庭支援委員会が8月末に広島市内で開いたセミナーでは、尾道市のSSWや市立小教諭が「成果は実証されている」「教職員の精神的な支えでもある」と、継続配置や待遇改善を訴えた。 「今の親は育児不安が大きいが、相談者はいないし、批判されることを嫌う。孤立していることが外から見えにくい」。大阪府立大の山野則子教授(児童福祉学)もその役割の重要性を指摘する。 呉市のSSWだった薬真寺満里子さん(62)は「ようやく人間関係が築け、長期的な支援が必要だと分かったケースもあった。子どもの人権を守ることに自治体は積極的に取り組むべきだ」。制度の復活を強く望んでいる。 (2010.9.20)
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