中国新聞


広島県教委 35小学校「山・海・島」で3,4泊
長めの合宿で深い体験
「協調性や自律性高まる」「本当の姿が見える」


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<左>言葉を交わさず誕生日順に並ぶゲームで、指や表情で思いを伝え合う児童たち<右>中国人研修生(右端)と折り紙に励む児童たち

 小学校で、期間が従来よりやや長い合宿研修が盛んになってきた。集団生活や自然体験にじっくり取り組み、成果を高める狙いがある。広島県教育委員会が本年度から始めた「『山・海・島』体験活動推進事業」では、県内35校の5年生がそれぞれ3、4泊の合宿を体験する。

 江田島市の江田島青少年交流の家。夏休みを約1週間後に控えた東広島市の下黒瀬小5年の65人が3泊4日の合宿に臨んでいた。

 交流の家の「人間関係づくりプログラム」では、じゃんけんでわざと負けたり、言葉を交わさずに誕生日順に並んだりするゲームをした。夜には、同宿の中国人研修生11人と折り紙などで交流。身ぶり手ぶりで思いを伝えようとする姿が広がった。

 「個々のつながりが薄い」といわれる子どもの姿を踏まえ、2クラスの各担任教諭が年度初めから合宿メニューを練った。あいにくの雨でカッター研修や海辺の観察などはできなかったが、子どもたちは生き生きと活動していた。

 銭本智大君(11)は「みんなの思いを一つにする楽しさがわかった」。原田莉子さん(11)も「相手やみんなを思いやることの大切さを感じた。ジコチュー(自己中心的)は駄目」と話していた。

 県教委は昨年度、「豊かな心を育てる体験活動推進事業」として、県内23市町ごとに1校ずつをモデル的に選び、3泊4日以上の合宿を実施。児童、保護者へのアンケートで協調性や自律性、コミュニケーション力などが高まると評価を受けた。環境のまったく異なる場所に出向いたり、交流活動を取り入れたりすると効果が高まる傾向もみられたという。

 ▽カキ養殖の手伝いも

 「山・海・島」の事業は、そうした結果を踏まえてさらに拡充。希望した各校は、カキ養殖の手伝いや野草料理作り、里山の手入れなど多彩なプログラムを盛り込んでいる。

 来年度から全面実施となる新学習指導要領も、自然の中での集団宿泊活動の充実をうたう。背景には、子どもの日常生活で、自然体験や集団での体験が乏しくなっているとの危機感がある。

 県教委指導3課は「五感に響く体験活動を学校で意図的に仕組んでいかないといけない時代だ」と指摘。2年前までの野外活動は1泊がほとんどだったが、「3泊を超えると、よそ行きでない本当の姿が見えてくる」と意義を強調する。

 一方、新学習指導要領では授業時間数も増える。教員の間では「4日も5日も学校を空けるのはきつい」などの戸惑いもある。

 ▽時間や人繰りに工夫

 下黒瀬小の加藤聡教諭(42)も「確かにしんどい」と実感をにじませた。それでも、「日々の学校生活と違い、こういう場所で体験したことは記憶の深いところに入り込む」と前向きにとらえる。

 合宿では、時間や人のやりくりに工夫を凝らした。生き物観察は理科、野外炊飯は家庭科―など、プログラムは部分的に授業の一こまにカウント。他学年の教諭や広島大で募った学生ボランティア3人の手も借りた。

 武川彰校長(53)は「昔は親とのキャンプや子ども会、スポーツ少年団の活動で経験してきたことを、学校で補わざるを得なくなっている」と語り、学校全体で支える雰囲気づくりが大事と説いた。(松本大典)

(2010.7.26)


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