教室で実践広がる
▽安佐北中高 社説読み比べ違い実感 中学3年生が真剣な顔つきで読んでいるのは、社説欄だった。安佐北中高(広島市安佐北区)の週1回の選択授業。国語を選んだ18人は、教科書の代わりに新聞5紙を使う。7月から、社説の読み比べに取り組んでいる。 難解な用語が多く、ハードルは高い。舟橋宏昌教諭(37)の指示で、生徒は5、6月に各紙が社説で取り上げたテーマを1日ずつ書き出すことから始めた。さらにテーマを「経済」「地域」など、14項目に分類。各紙がどの項目に力を入れているのか―、その違いを確かめた。 舟橋教諭は「各紙の情報が同じではないと実感させたかった」と説明する。「多様な情報を集め、比べ、判断する。そんな力を付けるには、新聞は格好の教材だ」。今後はいよいよ、話題を一つに絞り、各紙の社説を読み比べていく、という。 生徒の関心も高まってきた。柏尾季(みのり)さん(15)は「以前はテレビ欄しか見なかったけど、社説は問題のポイントがまとめてあるし、記者の意見がはっきり出ている」と目を通すようになった。三浦萌さん(14)も「同じ新聞でも、各紙の視点が違うのが面白い」と授業を楽しむ。 舟橋教諭は「良質な文章に触れられるのもNIEの特長」と指摘する。6月には、記事の要約に取り組んだ。生徒は難しい言葉の意味を調べ、自分の言葉に言い換えて、文を練った。書く力も伸びてきた、という。 中筋小 毎朝 廊下に朝刊クイズ 新聞に親しむことに主眼を置き、授業以外のNIE活動に工夫を凝らす学校もある。中筋小(安佐南区)は毎朝、職員室前の廊下に当日の朝刊の記事に関連したクイズを張り出す。「サッカーワールドカップで勝敗を予想し、話題になっている生物は?」「3年後に広島で開かれる大イベントはどれ?」…。始業前に児童が相次ぎ訪れ、正解を当て合う。 出題者はNIE担当の戸井一宏教諭(35)。出題用紙をめくると、正解と関連記事の切り抜きが読めるよう工夫し、記事の解説も書き添えている。切り抜いた後の新聞も閲覧できる。戸井教諭は「まずは楽しみながら新聞に触れてほしい」と期待する。 3、4年生は「見る・読む」、5、6年生には「考える・書く」と、発達段階に応じた目標も掲げた。記事の感想を書き、平和などをテーマに新聞を作るなど、各学年の授業でもNIEを実践している。(田中美千子) ▽子どもの心に「なぜ」の問いを 日本NIE学会会長の小原友行・広島大教授の話 新学習指導要領は情報を集めて知るだけではなく、出来事の背景を読み取り、より良い社会をつくるにはどうすべきかを考える「情報読解力」の理念を重要視している。 新聞は事実を伝えるだけでなく、ニュースの背景や、社会の対処の在り方を示すメディアなので、この力を身に付けるには最適だ。漢字や語彙(ごい)、表現方法を学ぶためだけの教材ではない。若者には活字離れとともに、世の中にも関心がない「社会離れ」が起きているが、新聞を読めば社会に関心を持てる。 NIEでは「なぜ」という問いが、子どもの心の中に生まれる記事に出合わせることが重要で、教師は普段から新聞を読み、優れた教材を作ることが欠かせない。複数の紙面を読み比べたり、喜怒哀楽を見つけ出したりするなど、記事が伝える本質を見極め、自分の意見を発信できる授業になるような工夫が必要だ。新聞も、出来事の背景を深く追った記事をより多く載せてほしい。
(2010.7.18)
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