▽幼保一元化 「縦割り」の壁 新興住宅地の広島市安佐南区大塚西に暮らす主婦佐々木千穂さん(39)の朝は、あわただしい。長女琳ちゃん(5)と次女藍ちゃん(1)を車に乗せると、約40分かけ市中心部に向かう。聴覚障害がある琳ちゃんを広島南特別支援学校に送るためだ。 佐々木さんは、授業が始まった後も学校に残り、教材の準備などを手伝う。娘の成長に備え、市域を越えて廿日市市の手話サークルにも通う。その間はずっと妹の藍ちゃんを連れている。佐々木さんは「せめて保育園に預けられたら、少しは楽になるんだけど」とため息を漏らす。 佐々木さんは5月上旬、自宅から車で数分の保育園への入園を申請した。だが、安佐南区は、市内で安佐北区に次いで待機児童が多く、約2カ月たった今も入園のめどは立っていない。 広島市内の保育園の待機児童は4月1日現在で220人に上り、この2年で6倍に急増した。このほか自宅や職場から遠い保育園にしか枠がなく、あきらめる事例もある。潜在的な待機児童数はさらに多い。 参院選。民主党は支給している子ども手当月額1万3千円からの上積み分について、「現物サービス」に代えられるようマニフェスト(政権公約)に明記。保育園の定員増を検討項目に挙げた。自民党など主要政党の大半も「待機児童ゼロ」を掲げる。それは、対策が実態に追いついていない、という共通認識にほかならない。 広島市は本年度、保育園の施設の増築などを進め、市全体の定員を933人増やす計画でいる。それでも女性の社会進出に加え、不況の影響で共働きは加速し、待機児童が解消できるのかは「不透明な状況」(浜田祐二保育施策推進担当課長)という。 一方で、教育を主目的とする幼稚園に通う子どもは減り続ける。広島市でも定員割れの園が目立つ。政府はこのアンバランスな状態に着目し、幼稚園と保育園の二つの機能を併せ持つ「認定こども園」の導入を進める。 政府は2012年度までに2千園以上の設置を目指す。主に需要の少ない幼稚園を拠点に広げていく方針。だが、保育園を所管する厚生労働省と、幼稚園を所管する文部科学省にまたがる運営基準や規制は複雑で、設置申請は伸びていない。 認定こども園の一つ安佐南区毘沙門台の「サムエル信愛こどもの園」の宮田美智子園長(63)は「厚労省、文科省それぞれに手続きが必要な事務が多く、運営負担が大きい。園内の人員配置にしても、保育士と幼稚園の教諭は別の資格で柔軟にはできない」と指摘する。 4月1日現在、認定こども園は全国に532園、広島市内には5園しかなく、待機児童解消の「切り札」になる現状ではない。(教蓮孝匡)
(2010.7.8)
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