中国新聞


「弁当の日」広げる食育
中国地方59校実践 家族のつながり実感


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自作の弁当を披露する西南中の生徒
▽提唱の元教員竹下さん、益田の西南中で講演会

 子どもが親の手を借りずに作った弁当を学校に持参する「弁当の日」。この実践を教員の立場で提唱した香川県綾川町の竹下和男さん(61)が今春退職し、全国の学校を巡って意義を伝えている。中国地方でも実践校が増え、共感の輪が広がっている。

 益田市上黒谷町の西南中で5月上旬にあった食育講演会。竹下さんは福岡県のある親子のエピソードを紹介した。母親を乳がんで失った5歳の女児「はなちゃん」と、父親の日常とは―。

 死期を悟った母親は娘にみそ汁作りを教える。「毎日、お父さんに作ってあげてね」。約束を守る娘。帰宅の遅い父親は、味付けがまずくても喜んだ。娘は、母親の代わりに食事の用意を続けた。

 竹下さんは「はなちゃんは父親が喜ぶことが楽しくて仕方ない。『父親には私が必要』と気付いた」と強調する。料理で得た自己肯定感。独力で弁当を作ることで、竹下さんは「家族の役に立ちたいという『心の空腹感』が埋まる」と話す。

 竹下さんが、勤めていた小学校で弁当の日を始めたのは2001年。当初、保護者は猛反発した。「包丁で指を切る」「親が作った方が早い」…。竹下さんは「料理の技術は学校で責任を持って教える」と説得した。

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「家族のために仕事をすることは、勉強よりも大切かもしれない」。弁当作りの意義を話す竹下さん 

▽競争意識を刺激

 見栄えの悪い弁当は恥ずかしい。数回続けるうち、子どもの競争意識が刺激された。焦げた焼き肉とナスを詰めた弁当を堂々と披露する男児がいた。弁当に付けた名前は「独立宣言」。これまで男児は、親が作った弁当を持たされていた。

 竹下さんは「子どもには失敗する権利がある」と力説する。親を乗り越えたいという自立心を、弁当の日はさりげなく引き出す。

 西南中は、昨年度から弁当の日を始めた。三浦弘恵養護教諭(53)は「向上心や自信、親への感謝が目に見えるようになった」と変化を実感する。

 竹下さんの講演の後、全校生徒20人が車座になって自作の弁当を見せ合った。3年真田莉奈さん(14)が持参したのは、クマの顔をのりで描いたチキンライス。「一緒に食べるとみんなの工夫がよく分かる」とほほ笑む。

▽友達づくり効果

 竹下さんによると、弁当の日の実践校は全国で約600校。中国地方では59校が取り組む。小中学校に加え、山口県立大(山口市)や就実大(岡山市中区)美作大(津山市)も始めた。乱れがちな食生活の改善や、友達づくりに効果を挙げているという。

 「弁当の向こう側に、おいしく食べてほしいと願う人の存在を感じてほしい」と竹下さん。弁当の日が伝えるのは、支えあって生きる、人と人とのつながりの重みだった。(石川昌義)

(2010.5.31)

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