【社説】 「子ども手当」とともに「高校無償化」は鳩山政権の目玉政策である。その高校無償化法案が衆院を通過し、政府が目指していた月内に成立する見通しだ。 公立高を設置する地方自治体は授業料を原則として徴収せず、国が減収分を補てん。私立高には世帯の年収に応じて生徒1人当たり年額約12万〜24万円を一括支給する法案である。 4月実施の予定で、政府・与党は夏の参院選に向けアピールしたい考えのようだ。しかし、朝鮮学校を対象とするかどうかで政府内は迷走。その理念や政策の効果も不透明なうえ、新たな格差を生じる恐れも指摘されている。 無償化は先進国の多くが実施しており、高校を実質的に義務教育とする第一歩として評価したい。ただ、バラマキという批判もある。年間約4千億円の税金を投じる政策だけに、説得力のある説明が求められる。今回の無償化を機に、中等教育の在り方をめぐる国民的な議論は避けて通れまい。 課題も浮き彫りになっている。一つは教育格差の拡大だ。 授業料が不要になる公立高の人気が高まることで難易度が上昇、塾などに通えない子どもが公立に進学しづらくなる恐れがある。 子どもが16〜18歳でも高校に通っていない家庭は無償化の恩恵が受けられず、特定扶養控除が縮減されて負担が増える。 国は制度を補完する支援を都道府県に求めているが、中身は自治体任せだ。広島県は国に上乗せする形で、2010年度からは低所得者世帯を全額免除にする方針。自治体の財政力の差が教育格差にもつながりかねない。きめ細かな救済策を検討する必要があろう。 もう一つは、朝鮮学校の扱いだ。政府は第三者機関で検討する方針で、判断は4月以降に先送りされる見通しである。 きっかけは中井洽拉致問題担当相が朝鮮学校の除外を文科省に要請したことだ。拉致問題で進展がないため、北朝鮮に対する圧力を強める狙いがあったのだろう。 これを受けて鳩山由紀夫首相はいったん除外を容認。その後、「拉致問題とは関連させず、教育内容を基に判断する」と修正するなど“ぶれ”が混乱を招いた。 朝鮮学校は各種学校に位置付けられているが、ほとんどの大学で受験資格が認められている。インターハイや全国高校ラグビー大会などでも活躍している。 全国に10校あり、生徒の総数は約2千人。朝鮮籍は46%で、韓国籍が51%を占めるという。大半が日本で生まれて育ち、将来も日本で過ごすだろう。その子どもたちを、直接関係のない外交や制裁措置に巻き込んで、つらい思いをさせたくはない。 国連の人種差別撤廃委員会は「教育の機会提供に一切の差別がない」状態を確保するよう日本政府に勧告した。朝鮮学校を除外することは、民族差別や人権侵害につながりかねない。多文化共生社会を目指すためにも、拉致問題と切り離して考えるべきだ。 (2010.3.19)
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