中国新聞


中国5県に今春延べ367大学
地方受験会場 設置広がる


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 今春、中国5県に地方受験会場を設けた大学が延べ367校と昨年より15校増え、過去最高となった。少子化に伴う受験人口減少を背景に、地方の受験生獲得と同時に広く優秀な生徒を集め、大学の質的向上も図る狙いがある。受験生にとっても受験機会の拡大につながる。「大学全入時代」に突入し、激化する大学間競争。地方受験会場の増加は、大学が初めて直面する大きな環境変化を映し出している。(編集委員・山本浩司)

 ▽急増の背景

 大手予備校、代々木ゼミナール(東京、代ゼミ)の資料によると、2009年度入学を目指す受験者向けに今春、中国5県に地方受験会場を設けた大学は延べ367校。複数の県に会場を設けた大学も多く、実数では公立6校、私立196校の計202校となる。

 実数ベースでの大学の所在地の内訳は、北海道1校、関東32校、北陸5校、東海19校、近畿80校、中国32校、四国8校、九州25校。中国地方の大学は所在地以外の都市に会場を設けたケースである。

 202校のうち、関東、近畿で計112校と半数以上。受験生獲得のため、大挙して中国地方へ進出している状況が浮かび上がる。

 一方、受けて立つ側の中国地方の大学は、近隣の県に会場を設けるケースが多く、比較的知名度がある地域内で堅実に受験生獲得を図っている。

 代ゼミが毎年作成している受験情報資料がある。その1993年度版では、既に延べ131校が中国地方に受験会場を設けていたことが分かる。16年前の実数ベースの内訳は、関東6校、北陸2校、東海20校、近畿27校、中国12校、四国2校、九州24校。当時は東海、近畿、九州が中心で、その後に関東から相次いで進出してきた様子が見て取れる。

 93年度以降は2年間を除き、地方受験会場を設ける大学数は右肩上がり。16年前と比べ、延べ大学数で2・8倍、実数では2・2倍に増加している。

 文部科学省の統計ではこの間、全国の国公私立大学数は534校から773校へと1・4倍、在籍者は238万人から285万人に増えた。他方、18歳人口は66年度の249万人がピーク。76年度の154万人を底に、92年度はいったん205万人まで戻したが、07年度には130万人にまで落ち込んでいる。

 大学数の増加に反比例するように減る18歳人口。地方受験の増加は、この動きと直結している。ある教育関係者は「関西の大学が多いのは、受験人口の減少で地元受験生だけでは定員を満たせなくなっているから。また大学にとって、受験料が大きな収入源にもなっている」と指摘する。

 教育関係の広告会社進研アド(大阪市)の調査では、昨年度の広島県内での大学別の受験者数で立命館大(京都市)が2182人と、地元の大学を抜いて2位に躍進。山口県でも3位に入った。同大広報は「広島は私立大学の数が少なく、併願する受験生が多いのではないか。今後、地方受験を始める大学が増えれば、知名度アップの広報活動に一層力を入れる必要が出てくるだろう」としている。

 ▽将来の課題

 18歳人口のさらなる減少が予想されるなか、大学受験はどの方向に進むのか。

 「大学全入時代」を迎えた今、学力一辺倒ではなく、個性あふれる学生獲得のため、推薦入試やアドミッション・オフィス(AO)入試を採用する大学が増加。受験機会そのものを増やす動きが目立つ。

 その一方で、新たな課題も抱える。学生獲得を優先するあまり入学のハードルを低くすると、例えば大学での資格取得率が低下する。代ゼミ広島校の平田耕造広報担当は「大学にとって入学後、他の学生をリードしてくれる意欲的で優秀な学生をどれだけ獲得するかが鍵。学習意欲が低く、結局目指した資格も取得できないというのでは、志願者減少を招くだけ」という。

 そこで、まず大学について関心を持ってもらう広報活動の強化に動く大学も多い。従来の高校3年生に加え、1、2年生も対象にしたオープンキャンパスを実施。何を学びたいか、という目的意識を早く持ってもらい、志願者を確保する。

 また、地方で開かれる進学相談会に参加する大学も増えている。10月に広島市中区で開かれた相談会には136ブースが並び、生徒、保護者合わせて約600人が集まった。

 大学間の競争が過熱する一方で、厳しい現実も見える。関東のある女子大は今春、初めて広島市に受験会場を設けたものの、受験生が集まらず、来春の実施見送りを決めた。地方での知名度不足が原因とみられる。

 大学は今、18歳人口の減少という大きな環境変化のなか、生き残りをかけて地方の受験生獲得にしのぎを削っている。その半面、地方の受験生からも、厳しい選択の目にさらされていることも忘れてはならない。

 ▽受験生への影響

 地方での受験機会の拡大は、受験生にとって歓迎である。まず、経済的、時間的負担が大幅に軽減される。東京や関西などで受験しようとすれば、交通費や宿泊費はもちろん、会場の下見などまで含めると、かなりの負担が迫られるからだ。

 今春、長男が東京と関西の3大学の複数学部を受験した会社員男性(50)は「受験料や交通費、宿泊費でざっと50万円かかった」という。関西の大学については広島会場で受験し「費用が助かった。受験日が早く、本命校の受験の予行演習にもなった」と地方受験の広がりを歓迎する。

 一方、中国地方の大学も地方受験に力を入れている。

 広島修道大(広島市安佐南区)は来春、福山、三原、三次、松江、山口、岡山、周南、浜田市に加え、福岡、北九州、高松、愛媛県今治市に受験会場を設ける。うち三原、今治市は新設である。

 1999年度に418人だった福山会場での受験生は10年後の今春、560人に増えた。同大入試センターの三保郊氏次長は「福山で受験を実施する他地域の大学と試験時期が重なり、会場の確保が難しくなっている。このため、三原にも分散して会場を設けることにした」と説明。今治市に進出する理由は、しまなみ海道効果で広島を志向する受験生が増えているとみているからだ。

 他大学との受験生の奪い合いについては「受験生の志向は幅広く、いまのところ競合していない」と比較的冷静に構えている。今春、同大に入学した1444人のうち79%、1144人が広島県出身者だったという。

(2009.11.22)


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