話しやすい環境必要
自宅では話せるのに、学校では口がきけない症状「場面緘黙(かんもく)」の子どもたちが身近にいませんか―。無理にしゃべらせようとはせず、温かく見守りながら専門家の支援を受けさせることが大切だ。 島根県在住の女性(37)が、双子の娘(9)の場面緘黙に気付いたのは2人が幼稚園に入った年。幼稚園に行きたがらず、教諭や友達と話せない。家ではよくしゃべるのに―。教諭から「場面緘黙では」と指摘された。 小学3年生の今、病院で遊戯療法を受けているが、学校では話せず、双子同士でも話せない。筆談や首の振りで意思を伝える。「提出物の出し方など、ちょっとしたことを尋ねられないことが、本人の不安につながっている」と女性は話す。 夫(42)とともに、娘の気持ちを周囲に代弁する。そのたびに戸惑う。過保護と思われないか。「遊ぼう」の一言も、大人の自分が伝えれば命令調に聞こえないだろうか―。 娘と接するのを避けたり、戸惑っている人を見ると動揺する。「緘黙について広く知られ、自然に接してもらえるようになったら」と願う。 三次市の男性(52)の中学生の長女も場面緘黙だ。不安を感じる場所では黙り込み、動けない。男性は「中学校に十分に通えないため、学力がついていないようだ」と気に掛ける。高校は全寮制に進ませるつもりだ。「皆とコミュニケーションを取るきっかけになれば」と期待する。 症状がみられる多くの子どもたちに接してきた児童精神科医師の杉山信作・広島市こども療育センター長によると、場面緘黙は情緒障害の一種。保育園入園やキャンプへの参加など、「家離れ」する際に表面化しやすい。 症状は生活にさまざまな影響を与える。話すことは物事の理解を助けるため、症状があれば社会スキルや学習内容が身に付きにくく、いじめに遭うことも。 杉山センター長は「騒いで授業を妨害する子どもたちの陰に隠れて、先生からは見過ごされやすい。逆に家庭ではしゃべるので、親は『学校が悪いのでは』と考え、問題に気付きにくい」と指摘する。児童相談所や教育相談所などへの相談が必要だ。 周囲は子どもたちとどう向き合うべきか。杉山センター長によると、無理に話させようとしたり、注目するのは禁物。「学校では、緘黙の子どもを緩やかに取り巻き、見守ってほしい。家庭では、話す力を付けさせるために話に耳を傾け、話す安心感を感じられるように家族のコミュニケーションを豊かにしてほしい」と呼び掛ける。 さらに大事なのは、家庭と学校、相談機関の連携とも。「『自由に話せる家庭』と『緊張して話せなくなる学校』の環境を溶け合わせるため、個人指導や懇談、校内の関係づくりなどの努力が必要です」と訴えている。(治徳貴子)
(2009.10.7)
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