広島市こども療育センター「愛育園」園長 西田篤 五月になった。街の景色は、まさに「動くもの 皆緑なり 風わたる」(五百木瓢亭)という俳句の世界になっている。一方で、黄金週間が終わったころから、子どもの生活の中に心の行き詰まりのサインが見え始める。 ところで、先日、私は中国放送の番組「寺内優のおはようラジオ」に生出演した。テーマは「五月病」。 一口に「五月病」と言っても、その意味するところは広い。一般的には、進学によって新たな生活を始めた子どもが、目標達成によって肩の荷が下りたり、予想とは異なる現実への違和感を覚えたり、環境に慣れることへの気疲れを感じたりして、心身に不調をきたすことを言う。 古くは、大学生のそれを「スチューデントアパシー」と呼んでいた。広義には、進級やクラス替えに伴うつまずきもこれに含める。 では、今どきの「五月病」はどうなっているのか。私の専門分野である不登校の受診は、この時期、最初のピークを迎える。 今日、子どもの世界では、以前にも増して、「コミュニケーション力」の差が、友だち関係の「格差」として現れる。 例えば、中学や高校の受験を経て進学した学校では、広い地域から生徒が集まるため、人間関係を新たにつくり上げる必要がある。そうした状況の中で「この指とまれ!」が始まると、社交的な子がメールなどを駆使してどんどん友だちづくりを進める一方、不器用な子はポツンと取り残されてしまう。 また、出身校や出身塾の関係を通じた囲い込みが行われることもある。したがって、この時期の子どもには細心の注意を払う必要がある。さえない表情は最初のSOSだが、忙しさから、彼らの「ねぇ、聞いて」という声を聞き逃してしまいがちなことも、肝に銘じておきたい。 そして、息切れしそうな彼らが、その頑張りを少し受け止めてもらえるだけで、再び息を吹き返すことも本当に多いのである。 (2009.5.4)
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