寺脇研(京都造形芸術大教授) 大阪府の最北にある能勢町は、山に囲まれた人口一万二千人余りの町である。この町で今、全国でも珍しい小中高一貫教育の取り組みが続いている。町内唯一の高校、府立能勢高と二つの中学校、六つの小学校が緊密に連携して、六歳から十八歳まで十二年間を見据えた教育が進行しているのだ。 小中高各段階の子どもたちや教師たちの交流授業、行事が積極的に計画されているだけではない。「小小連携」「中中連携」の取り組みでは、町内の各小学校中学校同士が交流する中で、子どもたちは「能勢町の子ども」という一体感を育てていく。町外へ出ている者が多いにもかかわらず成人式の参加率が九割を超えるというのも納得できよう。 町中心部の比較的交通の便が良い小学校の場合、中学校の先生による授業が毎週あり、高校生に助けてもらう授業が年間十数回実施される。本年度は高校生が小学校で授業をする試みが大成功を収めたそうだ。高校の体育祭や文化祭に小中学生が出場出演するのも当たり前の風景になっている。 本格的な導入から五年。それまで七割以上の子どもが町外の高校へ進学していたのが、現在では半分弱が能勢高へ入学するようになった。一貫教育の開始と同時に総合学科高校に生まれ変わったのも、人気が出た理由のひとつだ。 自ら選んで授業を組み立てる総合学科で、高校生たちは自信と学ぶ意欲を高めている。小学校のころはおとなしくて目立たなかった子が後輩の小学生たちの前で堂々と語り頼もしい姿を見せるのに、昔の担任だった先生が驚いていた。能勢高校の本年度卒業生の進路決定率は100%! 進学に就職に主体性をもって臨んでいる。 一昨年から、この町の教育について助言する役目をしているが、子どもたちの変化が如実に感じられる。ひとりの人間の成長を長い目でとらえる生涯学習の考え方を推進し、総合学科制度の創設にもかかわった者として、うれしい限りである。 (2009.3.16)
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