理系・英語で独自色 建学の精神求める声も
年が明けると、高校入試シーズンがやって来る。少子化の影響で私立の各校が生徒の募集に苦心するのは全国共通だが、広島県ではかつてなら大学進学をにらんで私立を志望した受験者層を、学力向上に力を入れ始めた公立が吸収している。危機感を募らせる私立各校は、生き残りをかけた特色づくりに懸命だ。(藤村潤平) 「高校受験で私立が第一志望の生徒は今やほとんどいない。私立優位の時代は終わった」。広島市内の塾関係者は現状をこう言い切る。 一貫教育に力 一九九八年の文部省(現文部科学省)の是正指導を機に、公立高は「競争」重視へと転換。これまで私立が特色とした進学指導を前面に押し出す学校が一気に増えた。加えて総合選抜や学区の廃止、推薦枠の拡大などの制度改革で、受験生の選択肢が広がった。 その流れに対応するかのように、中学を併設する私立校では、高校入学の募集を停止または定員を削減し、一貫教育を強化する動きが現れた。 広島女学院高(広島市中区)は二〇〇〇年度から高校入試の募集をやめ、中学入試に一本化。修道高(同)も十年前は、併設中学からの進学者を含む総定員の三分の一に当たる約百人を募っていたが、〇九年度の募集は十四人にとどめ、中学入試の枠を拡大した。 修道中・高の田原俊典校長は「公立高を意識している訳ではない」と前置きしつつ、「高校入学者の学力が低下した」と見直しの理由を説明。中高一貫強化へシフトし、高校入学者を対象に実施していた補習授業はやめた。「前倒しで進む授業には自力で追いついてもらう。それだけの学力がある生徒を求める分、門戸を狭めた」 東京大へ4人 しかし、かつては広島大の付属校を除けば私立の「専売特許」だった一貫教育も公立に広がった。〇四年、県立広島中・高(東広島市)と福山市立福山中・高が開校。一貫教育を受けた生徒が大学受験に挑むのは来年度だが、進学指導態勢の強化によって高校からの入学者の学力も向上。県立広島は東京大合格者を今春四人出すなど、私立進学校と実績で肩を並べ始めた。 私学にしかできない一貫教育とは何か―。各校が模索する中、安田女子中・高(中区)は、来春の中学一年から「自然科学探究コース」を設ける。 医歯薬学などの分野で活躍する女性の育成を軸に、理系教育に重点を置く一学級を編成する。水野善親校長は「生き残りではなく、勝ち残るため。選ばれる学校づくりを目指す」と意気込む。 運営に危機感 広島城北中・高(東区)の福原紘治郎校長も危機感を隠さない。受験生を公立に奪われている現状を「学校運営を続ける上で危険水域」と認識し、英語教育の充実を念頭にした新たな教育方針を今秋に掲げた。「国内の難関大だけでなく、欧米の大学を直接狙える生徒を育てる」と構想を描き、付加価値づくりに努めている。 一方で、学校の「出口」である進学実績で競う公立と私立を、生徒を送り出す中学校側は冷静に見据える。広島市公立中学校長会の進路指導委員を務める大州中の川上恭弘校長は「進学先も大切だが、私立の魅力である建学の精神が見えにくくなっている部分がある。根本を磨き、生かしてこそ、教育の豊かさにつながる」と問い掛けている。 (2008.12.29)
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