【社説】 健康保険証がなければ、子どもが病気になっても受診を控える恐れがあるだろう。そんな「無保険」状態の中学生以下の子どもたちが、中国地方で千八百五十九人もいることが分かった。放置できない事態ではないか。 国の方針で市町村が、国民健康保険料を一年以上滞納した保護者から保険証を返還させた。その結果、無保険の子どもが多数生まれた。厚生労働省が初めて実態を調べ、全国では三万二千九百人に上ることが明らかになった。 保険証を取り上げるペナルティーは二〇〇〇年度から始まった。急増する滞納者を減らし、国保財政の健全化を図るのが国の狙いだった。滞納世帯は、市町村から保険証の代わりに被保険者資格証明書を渡される。その場合、窓口でいったん医療費の全額を負担しなければならない。 保険料の支払いも難しい状態にある保護者にとって、急な出費は重い負担だろう。医療費の返還を後日申請できるが、必要な治療であってもためらう傾向があるという。保護者の経済状況によって、子どもの受けられる医療に格差が生じているとすれば、由々しきことだ。 調査を受けて厚労省は十月末、遅まきながら対策を打ち出した。子どもが病気で医療費の一時支払いが難しいとの申し出があった場合、緊急措置として短期保険証を出すというものだ。ただ、医療機関に駆け込む前に、まず市町村窓口に行かなくてはならない。夜間や休日はどうするのか、といった不安は消えない。 受診遅れを招く、との批判を受け、独自で対策に乗り出した自治体もある。 広島市は本年度から、子どもの有無にかかわらず、被保険者資格証明書を出す対象を「保険料の支払い能力がある」と判断した場合に限ることにした。結果的に証明書の交付はなく、無保険の子どももゼロになった。三次市や境港市などは、中学生以下については無保険状態を解消する措置を独自に講じている。 中国地方の無保険の子どもの内訳は、中学生六百三十七人、小学生九百三人、病気になることが多い乳幼児も三百十九人いる。緊急避難的な対応として、当面は市町村による救済策が必要だろう。ただ、自治体任せの対応では、地域格差が拡大するだけである。 自営業や無職の人が対象の国民健康保険。一カ月以上の滞納者は全国で四百七十四万世帯、18・6%と高止まりにある。払えるのに払わない人への厳しい対応は当然、必要である。しかし、低所得者が増える中、保険料が高いとの指摘もある。景気後退で今後、保険料を支払えなくなる世帯が増える恐れもある。 児童福祉法は、「保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する」ことを国や地方公共団体に求めている。子どもを無保険状態のまま放置しないという最低限の保障をするのは、最終的には国の責務である。 (2008.11.22)
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