エキスパート教員招き研修会 子どものやる気を引き出し、より高い知識を身に付けさせる―。そんな理想的な授業の実践に取り組み、評価されている先生たちがいる。広島県教委が認証する「エキスパート教員」。二〇〇四年度以降、これまでに計三十七人が選ばれている。どんな手法で教えているのか。その技に学び、自身の授業に生かそうと、現役教員とOBでつくる「スーパーティーチャーを志向する会」(会長・松尾健史会長)は今夏、三原市での定例研修会に二人のエキスパート教員を招いた。授業づくりのヒントに富んだ認証者たちの発表と、参加者の受け止めを紹介する。(田中美千子)
■基礎学力、授業外も活用 【学力定着に向けた取り組み】 限られた授業時間で基礎学力を定着させるには限界がある。そのため、三年前から校長を筆頭にした学内研究会を設け、いい方策がないか検討してきた。本年度は全校を挙げて、日常的に七つの取り組みを進めている。 (1)毎朝十分の読書 ベーシックテストの採点や不合格だった生徒のサポートは、教員が分担してこなす。基礎・基本を身に付けさせることで、通常の授業も充実する。学力テストの結果も少しずつよくなってきた。 【教え方の工夫】 担当の国語科では、学習意欲を持たせるよう心掛けている。例えば、三年生の授業に取り入れた「俳句甲子園」。まず、俳句の知識を習得し、それらを活用した句を詠んで勝敗を競う。生徒は自分の作品の良さをクラスにアピールするし、聞き手も、判定とその理由とをクラスに発表する―という内容だ。 退屈と思われがちな俳句だが、ゲーム感覚を取り入れたためか喜ばれた。字数を指折り数えながら廊下を歩く生徒も見掛けた。俳句の解釈をさせたテストの正答率も高く、目的意識を持たせることが大切と再認識した。
■法則性を児童が「発見」 【教え方の工夫】 「じっくり考え、はっきり表現させる」を心掛けたい。例えば、算数の体積の単元。平面的な二次元の世界と違い、子どもは立体的な三次元の世界をイメージしにくい。手で触り、目で見て考えられるよう、手製の立体模型などを使っている。 直方体の体積の出し方「縦×横×高さ」を教え、教科書にないが、それぞれの辺を二倍にすると体積が八倍になることにも触れる。まずは何問か数式を解かせ、法則性に気付かせる。次に模型を配り、なぜ八倍になるかを考えさせる―という流れだ。 児童は隣同士で模型を重ねるなどし、長さが二倍だと、もとの模型が八個分になっていると気付く。その「発見」を、声を弾ませながら説明してくれる。 こうして学んだことを忘れないよう、ペアワークにも取り組む。片方が「直方体の体積は?」と問い、もう一人が公式を答える―という感じ。基礎の定着に役立っている。 【目標の立て方】 昨年度、全国学力調査の結果を検証する県教委の活動に携わり、何を学ばせるのか、事前にはっきりさせる必要性を再確認した。 例えば、並行四辺形の面積を求める場合。例題(1)は大半の児童が解けたが、応用力を問う例題(2)は正答率が二割に落ちた。底辺と高さを掛けるべきなのに、底辺と斜辺を掛けた誤答が多い。公式を覚えるだけでなく、「高さ=底辺に直角な線」としっかり分からせることを目標にしないといけない。理解度をみるには、斜辺も高さも示した情報過多な問いを出すといい。 【研修会に参加した教師たちの感想】 ●学校が一体となり、基礎学力定着に取り組む奥村先生のケースは興味深い。先生がタクトを振り、全体的に同じ方向を目指せているのがすごい。 ●教科書をさらうことに終始しがちな先生もいるが、八島先生は子どもの興味を引き出す教材を開発するなど妥協がない。見習いたい姿勢だ。 ●先生たちのように授業研究に取り組みたくても、教員の日常は多忙を極めている。学校長への報告書作りなど雑多な事務作業に追われ、子どもと向き合う時間が減っている現状を何とかしたい。 ●エキスパート教員は、教育現場を活性化させる役割も担っている。個人の取り組みに終わらせず、独自の授業法を全校、または地域のほかの教員たちと共有してほしい。 クリック エキスパート教員制度 広島県教委が教科や生徒指導に優れた人材を認証する。教員の指導力の向上を狙い、2003年度に創設した。対象は、私立と広島市立を除いた県内の小中高校や特別支援学校の教員。認証者は、県内各地の教員研修などで指導や助言に当たる。年度ごとに、これまで計37人が選ばれている。 (2008.9.29)
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