成果が見えるチャート式 工夫凝らし絶対評価 学校が子どもの成績などを保護者に知らせる通知表。単なる通知に終わらせず、学力や学習意欲の向上、指導改善に生かそうと工夫を凝らす学校がある。島根県飯南町の赤来中(八十八人)の一例を紹介する。 ▽赤来中(島根県飯南町)の試み 終業式前日の十七日、三年生三十四人がそれぞれ、五教科の担当教諭のもとを巡っていた。学期末恒例の「学習カウンセリング」。理科室や会議室で生徒と向き合う教諭は、A4判の一枚紙を手渡す。「レインボーチャート」。そう呼ばれる用紙では、学習成果を視覚的に表した七角形のレーダーグラフが目に付く。 グラフは、身に付けたい七つの「学力」の目標到達度を示す。「関心・意欲・態度」「知識・理解」「技能・表現・コミュニケーション力」…。学習指導要領を踏まえて独自に定めた観点だ。すべて満点なら大きな正七角形となり、偏りがあればでこぼこのいびつな形になる。
「ゆとり」の一環 「強みも弱みも一目で分かるでしょ」と、開発に携わった松島貴紀教諭(34)。通知表の補充資料として二〇〇三年度から教科ごとに作成している。 今の通知表は、テストの点などを基準に同級生との比較でランク分けする「相対評価」ではなく、教科ごとに定める観点で個々に目標到達度を測る「絶対評価」で付けられる。「ゆとり教育」の一環として、〇二年度からそうなった。 「個」に応じた絶対評価の利点をどう生かすか―。同年度から三年間、国の学力向上フロンティアスクールに指定された赤来中が編み出したのが、レインボーチャートだ。 松島教諭は説明する。「従来の通知表だけでは分からない評価の根拠やプロセスを示すことで、学習を振り返り、勉強の方向性を探る流れができた」 用紙には、五段階評定や観点別のABC判定の基礎となる、評価項目の一覧も併記。定期テスト、小テスト、リポート…。それぞれの狙いや点数が細かく記され、成長やつまずきのポイントがよく分かる。 家庭学習が浸透 チャートの効果を高めるため〇五年度から全学年で続けている学習カウンセリングでは、教諭らの助言も明快だ。「計算練習を重ねれば『5』に近づく」「英文表現が苦手なのは、単語の習得が十分でないから」―。 文章題の弱さを痛感した鉄原淳平君(14)は「夏休み中に猛勉強したい」。応用力が課題という三嶋里菜さん(14)は「できなかった問題に何度も挑戦する」と宣言していた。 ついに県平均を超えた―。十七日発行の「赤来中だより」。烏田勝信校長(57)は、県の学力調査の結果報告の脇にささやかな喜びをしたためた。点数ではなく、家庭学習の時間のことだ。 三年前の着任当初、三十分以下だった全校平均は約八十分(県平均約六十分)に。レインボーチャートが生み出した成果とみる。独自の保護者アンケートでも「家での勉強を見直す材料になる」と評価する声が多い。 「塾のない山里では家での頑張りが重要。点数にもきっと跳ね返る」と烏田校長。学校だよりで喜びを語る日を待ちわびる。(松本大典) ▽学校間で統一基準 広島県の中学 テストの点に応じた相対評価に比べ、教師が独自の基準で成績を付ける絶対評価は、学校間でばらつきが生じやすく、客観的な「学力」を比較しにくい。広島県公立中学校長会(光原達夫会長)はその欠点を補うため、通知表の付け方に統一的な目安を設けている。 二〇〇三年度の県内の中学校での調査で、評定に大きな差がみられたため、緊急決議で定めた。学習指導要領に基づく目標の達成率に応じ、評定の「カッティングポイント(分割点)」を設定。90%以上が「5」、89―80%が「4」、79―50%が「3」、49―20%が「2」、19―0%が「1」という具合だ。 その効果は、目安の設定後も毎年度続けている調査結果からうかがえる。 例えば「5」をもらった生徒の割合。五年前で「30%から5%」の範囲だった地区によるばらつきは昨年度、「20%から5%」までに縮小した。 相対評価では、テストの点に応じ、上位から順に7%が「5」、24%が「4」、38%が「3」、24%が「2」、7%が「1」と配分が決まっていた。しかし、絶対評価では各段階での人数制限はなく、極端に言えば全員「5」という評価もありうる。 県内での統一基準の設定は「絶対評価の相対評価化」ともとらえられるが、校長会の林保事務局長(58)は「対外的な信頼性を確保するにはやむを得ない」と説明する。 高校入試の合否判定で通常、学力調査とほぼ同じ割合で加味される調査書(内申書)には、通知表の絶対評価が反映される。このため、公平を期すために評定を補正したり、学力調査をより重視したりする高校や教委も出てきている。 文部科学省は「絶対評価の意義は個々の目標達成度をきめ細かくみる点にある。学校間のばらつきをなくす手段として、一定の地域で目安を設ける発想はあっていい」としている。 (2008.7.28)
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