広島県教委 取り組み開始
親同士が教育力を高め合う―。そんな学習プログラムを広島県教委がつくり、出前講座の本格展開に乗り出した。核家族化や少子化に伴って地域で孤立しがちな親が増える中、単なる座学ではなく、自由な意見交換を重視する手法を採用。子育て意識の向上に加え、同世代の子を持つ家庭のネットワークづくりを狙う試みとなっている。(見田崇志) ▽集団討論通じ連携の輪 「子どもが約束から一時間半も遅れて午後七時に帰宅。こんなことは初めて。しかるべきか、ほっておくべきか」―。六月下旬、庄原市の川北小であった講座では、保護者二十人と教員七人が四つのグループに分かれ、プログラムに沿って意見を交わしていた。 「まずは遅れた理由を聞かんと」「でも、ウザイって言われる」「うちは『ウザイって何?』と聞き返すよ」―。 経験を交えた議論は白熱。講師を務めた県教委生涯学習課の徳重宏美社会教育主事(44)が「正解はありません。ほかの人の意見も参考にしてもらえれば」と引き取るまで続いた。 十年ほど前まで百人を超えた同小の児童数はいま二十六人。学区内の約五百世帯で、子どもが通うのは十九世帯しかない。二年男児の母親である市職員酒井千幸さん(36)は「同じようなことでみんな悩むのだと知りほっとした。日ごろはこんな機会がないから」。受講後、笑顔を浮かべた。 成長別にテーマ 自我の芽生え、反抗期の子どもとの接し方、いじめ…。ゼロ歳から高校生まで成長段階別にテーマを設定した教材を使う一回九十分の出前講座では、簡単なゲームでグループ分けした後、何人かがテーマに応じた一場面を演じる。 ゲームや「寸劇」で緊張感を和らげた受講者たちは、そのシーンの親と子の気持ちについて用紙に記入。各自が考え方を整理した上でグループ討論に入る。 県教委が派遣した講師は進行と意見紹介にとどめ、受講者同士が経験を振り返り、学び合う。本年度は県内二十三市町すべてで計七十カ所の開催が目標。既に五十九カ所の予定が入っている。 家庭の教育力が低下している―。県教委が出前講座に本腰を入れる背景には、こんな共通認識と、地域社会の変化がある。 つながり希薄化 昨年度の県教委の教育モニターアンケート。初めて質問項目に加えた「家庭の教育力」について、モニターの七十九人全員が「低下していると思う」と答えた。 一方、地域では祖父母と同居していない家庭が増え、女性の社会進出も進む中、保護者同士のつながりは希薄化する。財団法人こども未来財団(東京)が二〇〇四年、三歳児までの母親を対象に行った意識調査(複数回答)でも「子育てを応援する社会とは思えない」との回答は77・4%。「自分が孤立しているように感じる」と答えたのは二人に一人だった。 広島県教委が学習プログラムに「正解」をあえて設けないのは、積極的な議論を引き出し、共感を深めることで、ネットワークづくりを促す意図がある。プログラム作成の協議会に委員として加わった、広島市の子育て支援サークル「げんき発信隊」の金子留里代表(47)は「トレーニングを通じて、社会とかかわりを持つことが重要」と指摘する。 〇六年の教育基本法改正で家庭教育の支援が規定され、文科省も本年度から家庭への情報提供や相談対応にあたる「支援チーム」を小学校区ごとの設置に着手。インターネットを活用して保護者同士の情報交換や交流を図る研究調査も予定している。 「都市部の出前講座では、参加した親の多くが初対面ということも珍しくない」と県教委。来年度以降は講座の実施主体を市町教委に移しながら、親同士の連携のきっかけづくりを後押しする構えだ。
(2008.7.7)
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