中学生の5日間職場体験
中学生の五日間以上の職場体験を文部科学省が奨励し、四年目を迎えた。中国地方での取り組みに温度差がある中、広島県内では二〇〇七年度までに全中学校の八割以上で導入が進んだ。実社会に子どもを触れさせる意味と課題は―。〇七年度までの三年間、文科省の研究開発校だった庄原市の庄原中(藤原二三幸校長、四百九十五人)を訪ねた。(見田崇志) 「髪をときますね」。風呂上がりのおばあさんに声を掛けた藤谷彩乃さん(13)の表情に戸惑いが浮かんだ。「ありがとう。でも私でやるよ」。やんわりと断られたからだ。 自宅から通う高齢者のリハビリなどをするデイサービスセンター相扶園(庄原市尾引町)。介護職の体験が初日の藤谷さんは「髪形にはみなこだわりがある。もっと話を聞いてすればよかった」。最初の小さなつまずきを反省してみせた。 二十日まで五日間の日程で行われた庄原中の職場体験は、藤谷さんら二年生の百九十七人が対象となった。市内の食堂、病院、保育所、商店、ホテルなど九十二事業所に三〜一人ずつ受け入れてもらった。 研究開発校だった昨年度までは、「キャリア科」の授業枠を設け、一年は市内の事業所について学習。二年では「アドバイザー」として招いた社会人のインタビューなどをしてきた。指定を終えた本年度は、総合的な学習の授業でキャリア教育を進めている。 「期待しすぎ」 「大人と接し、社会に関心を持つことで、日ごろの学習の意味を考えてもらいたい」と進路指導担当の上田寛教諭(47)。文科省は、実社会での五日間の体験を通した職業観、学習の目的意識の養成を職場体験の目標に掲げる。 しかし、国の旗振りにもかかわらず、中国地方での取り組みには大きな隔たりがある。 〇七年度に五日間の職場体験を実施した中学校の割合をみると、広島県教委は県立広島中(東広島市)以外の全百八十六校で実施し、ほぼ100%。鳥取県教委が72・9%、広島市教委も38・1%と全国平均(21・8%)を上回った。 これに対し、他の三県教委は山口14・0%▽岡山5・5%▽島根11・7%―と低迷する。山口県教委は「実施期間を五日間とするのは、事業所も学校も厳しい」と伸び悩みの理由を打ち明ける。 現場などには、文科省が狙う職業観の育成までは「期待しすぎ」との声や、教員が個別に事業所から協力を取り付けるのは負担が大きいとの指摘もある。「やりたい仕事ではなく、協力を確保した事業所から選ばせている」と広島市内の中学校教諭。別の中学校校長も「一、二日ならOKでも、五日間は難しいと断られるケースも多い」と明かす。 子どもは懸命 しかし、教室を飛び出した子どもは懸命に取り組んでいる。気を取り直して介護職の体験を続けた藤谷さんは、折り紙の七夕飾り作り、レクリエーションなどを通じ、お年寄りとの会話もスムーズに。「ここで思いやりの心を培って、将来に生かしてくれれば」。相扶園の荒木和美次長は優しく見守った。 「お客さん扱いされず、より多くの経験もできる」。広島県教委は、五日間という日程について、一日や二日の職場体験と比べた場合の利点を強調する。本年度は県立広島中を含めた完全実施を予定し、定着を目指す構えである。
(2008.6.23)
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